「あまり、無茶はするなよ」
「善処はするけど約束は出来ないですね」
仕事に出る秀一さんに言われて、約束が出来ないことを返す。メインは昨日の郵便強盗よりも今日の爆弾解体だ。秀一さんは呆れたようにため息をついて、頭を抑えている。正直、私が秀一さんの言うことを守らないのは今に始まったことではない。
「頼むから、死なないでくれ」
「秀一さんも、ですよ。それにほら、私悪運強いですし」
へらりと笑って見せれば、秀一さんがフッと笑う。それもそうだな、なんて言われてどうやら納得したらしい。
そのまま彼に頭を撫でられて、引き寄せられたかと思うとわざとらしいリップ音。いきなりされたソレに驚いて秀一さんの身体を押しのけようとするも力ではどうあがいても適わない。それどころか、意地悪そうな笑みを浮かべる彼に角度を変えてもう一度されることとなった。
「意地悪…」
「何を今更」
赤くなった顔を右手で隠しながら睨めば、楽しそうに返される。もう一度フッ、と笑って、釘を刺すように無茶をするなよ、と言って家を出る。どうやらまた私が良からぬことを考えているのはお見通しのようで、彼の勘の良さは何とかならないかと息を吐く。その勘の良さに、助けられていることがあるのも事実なのだけれど。
時計を見て、時間を確認する。私の事情聴取と実況検分は昼からで、まだ少し家を出るには早い。ただ、今日家を出るともしかしたら明日まで帰れない可能性もある。秀一さんにもその旨は伝えてあるけれど、問題は私の学校の方だ。全国模試は出来ないと思った方がいいだろう。成績にこだわっているわけではないから大丈夫ではあるだろうが正直人生二回目の高校生で勉強も上位をキープしているから教師陣の期待も高い。何と言って休むべきかを考えながら、背伸びをした。
+ + +
「あ、そういえば杯戸町公園で焼け焦げたペットボトルとかが見つかったんだけど心当たりあるかい?」
「あー……」
実況検分を大方終えた頃、千葉刑事に尋ねられた。何故か私の実況検分を担当したのは千葉刑事だった。確か子どもたちの実況検分は佐藤刑事だったから一緒にするわけではない私は別の人が来たということだろうか。…何故千葉刑事なのかが気になるところではあるけれど。警察とコネクションがあるのはいいのだけれど、ありすぎても変なフラグが立ちそうで怖い。最近はわりと自ら突っ込んで行っている気がするけれど。
「コナン君たちが君が持っていたから心当たりあるかもって言ってたから気になったんだけど…」
「私、爆発したとき近くにいたんですよね…」
隠すつもりはなかったんですけど、付け加えるように言えば、千葉刑事はまさか近場に人がいたとは思っていなかったらしく驚いたように本当かい!?と尋ねる。完全に忘れてましたけど、と言えばじゃあそっちの方もしなきゃなぁなんて呟いているものだから心の中で苦笑いを浮かべる。
あの電話ボックスに仕掛けられていた爆弾のタイマーを見たときか逃げたときか、その辺りで持っていたコンビニの袋を無意識のうちにどこかに放り捨てたのだろう。そういえばどうしたっけ、と思ったけれど大したものは入っていないからまぁいいかと思ったのを覚えている。
「ちょっとそっちの方の実況検分も取りたいから、そっちまで移動してもいいかな?」
「あぁ、構いませんよ」
まだちょっと帰れなくなるけど大丈夫か問われて、平気ですとだけ短く返しておく。コナン君たちほど幼くないにしろ、一応私も未成年だ。普通なら親の監視下にある年齢の私を気にしているのだろう。
(まぁ親なんていないだけど……)
あまり模索されても面倒なので言わないでおく。私の戸籍や住民情報がどうなっているかは分からないけれど、秀一さんが私と会った頃にはそういうものが一切無かったらしい。が、今の私は海外に行くためにパスポートを発行している(正確に言えばFBIから渡された)から恐らく必要最低限の情報は根回しして記録としてあるのだろう。今度住民票でも取ってみようか。
杯戸町公園に移動して、焼け焦げた電話ボックスを見る。あのときは怪我をしていたしあまり気にしていなかったのだけれど、こうして改めて見ると中々に酷い。
「思ったより真っ黒焦げですね」
「まぁ、爆弾だしねぇ…」
ガラス部分は完全に吹っ飛んで、枠組みしか残っていない。怪我とかは無かったのか聞かれて一瞬黙っていようかとも考えたけれど捜査に何かしらの影響があっても困るだろう。軽く飛ばされてコケたときにガラスで切り傷作ったぐらいですね、と言えば治療は!?と大きな声で言われ思わず身体がビクリと揺れる。
「すぐ薬局行ったんで…」
服を捲り、包帯が巻かれているところを見せる。わりと大きな傷にはなったけれど痛みは殆ど無くそこまで心配する必要もないだろう。その旨を伝えれば千葉刑事は安心したようにその場にしゃがむ。次からはこういうことがあったらあまり離れないでくれと切実に頼まれたので一応頭の片隅には入れておくことにしよう。
「いっそ刑事さんが聞かなかったことにするなら私黙ってますけど…」
「聞いた以上それはちょっと…」
「ですよねー」
立ち上がりながら言った千葉刑事の言葉に、つい苦笑を浮かべる。恐らく警察が来たときに私はいなかったから目暮警部には負傷者無しで報告をしているのだろう。詳しいことはよく分からないけれど、報告書の書き換えか何かになるのだろうか。
実況検分を再度行うべく、真っ黒焦げになった電話ボックスに近付いた。
2015.04.26
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