Marguerite

チャンスを掴め

 
実況検分が終わって、郵便強盗が起きた辺りに戻る。店に爆弾を仕掛けた、という連絡を受けてお店を調べているのは夕方頃だっただろうか。急遽杯戸町公園での実況見分も行ったからだろう、時間的には思っていたよりも丁度いいぐらいの時間だ。
曲がり角を曲がったら、2人の男の人が視界に入る。それは、私が探していた高木刑事と白鳥警部。どうやら店の捜索は終えた後のようで、2人共体勢は違うけれど車に寄りかかっている。

「こんにちは、お仕事中ですか?」
「え?あ、郵便強盗のときの…」
「篠宮呉羽です。って言っても、事情聴取とか何回かしているんで知ってますかね」

先に私の声掛けに反応したのは高木刑事。白鳥警部もすぐに気付いて、顔見知り程度の私に軽く会釈をする。
私は名乗りながら苦笑いを浮かべる。高木刑事から直接名前を呼ばれたことはないけれど、これだけ関わった以上名前は頭の片隅ぐらいにはあるのだろう。実況検分の後ですか?と聞かれたので少し長引いちゃいましたけどとだけ言っておく。多分そんなに経たないうちに千葉刑事から杯戸町公園のことを聞くことになるだろう。

「何かまた不審物でも見つかったんですか?」
「いや、ガセネタみたいだったんだけどね…」

爆弾を店内に仕掛けたって予告電話があったから念のためにね、と高木刑事が言う。私は、その言葉を待っていた。
犯人の目的は予告電話のガセネタなんかじゃない。今目の前にあるこの車に仕掛けられた爆弾だ。

(さて、どうやって車に乗せないようにするかな……)

まだ佐藤刑事たちが現れていない以上、ここで暫く時間稼ぎをするしかない。もしくは、申し訳ないが情報を聞き出した上で思いついたように言ってみるか。
バスジャックのときはともかく、郵便強盗の際に爆弾の存在に真っ先に気付いた人間ということになっているからそれなりのことは教えて貰えそうだ。
ただでさえ被っている猫を数匹追加する気持ちで、口を開く。

「結局、店内には何もなかったんですね…」
「そうなんだよ。でも、何も無いに越したことはないから」
「最近は、この辺りも物騒ですしね」

主に死神ホイホイのせいで、とは言わないでおく。
けれど、実際事件が多いのは確かだ。私が秀一さんの傍にいるから若干耐性が付いているけれど、よく考えたら殺人事件に遭遇するなんて一生に一回あるかないかぐらいのものだろう。
いい加減その死神ホイホイ現れてよ、と心の中で思いつつあまり引き伸ばすのは不自然だ。思いついたような素振りを見せて、車の方を見る。

「店内の爆弾を探すときって、野次馬はいたんですか?」
「え?あぁ、それならいたよ。店内のお客さんは一度外に避難してもらったから…」
「…もし私が犯人なら、の話なんですけど」

考えるように、少し間を入れる。白鳥警部が、注目するように私を見ていることに気付いてないフリをしながら眉間にシワを寄せる。

「野次馬に紛れて、その間に刑事さんが使っている車に爆弾を仕掛けるって出来るんじゃないですか?」

私の言葉に2人共が、まさか、と言うような視線を車に向ける。そのまさか、なんだけれど。
もしこれ実際は仕掛けられていなかったら相当恥ずかしいな、と思いつつ車の周りを確認する高木刑事と白鳥警部を見つつ車のサンバイザーを確認する。そこには、文字の書かれた白い紙。

「あの、車のサンバイザーのところ…」
「すみません、少し失礼します」

隣にいた白鳥警部に話しかければ、私を車から離れさせるように避けさせる。けれど、危ないのはここからだ。
車の運転席の扉を開けようとする白鳥警部の後ろについて行き、白鳥警部が車の扉を開けると同時に閉まらないように私が扉を押さえる。あとは、閉めなければ爆発することはないはず。

「っ、コレは…!」

白鳥警部がサンバイザーに貼られていた紙を手に取る。とりあえずこの車の扉が閉まることなく白鳥警部が紙を手にしたことに安堵して息を吐いた。

「あ、佐藤さん!」

高木刑事の声が響く。どうやらコナン君たちも一緒だったみたいで、車の運転席にハンドルに対して横向きに座って一枚の紙を見る彼と、隣でその紙を覗きこむ私に疑問に思ったようで何かあったのかを尋ねる。
事情を説明する声を聞きながら、紙に書かれた文章を読んでいく。野球を連想させるような文章。一夜かけてコナン君らが解読するコレのタイムリミットは午後3時。校内にいたら確実に試験を受けなければならなくなることを考えると、やはり明日の模試は欠席した方がいいだろう。多分、放っておいてもコナン君が解決してくれるのだろうけれど。

「それ、何が書いてあるの!?」

事情を聞いたコナン君が私たちの方へとやってくる。
これを読み上げるべきは、白鳥警部の役目じゃない。彼もそう思ったのか、それとも偶然なのか。白鳥警部は佐藤刑事を呼んでその紙を渡す。吹っ切れるチャンスになるかもしれない、その紙を。

「っ……」

紙に書かれた文章を見た佐藤刑事が息を飲む音が聞こえる。そして震えるような声で、その中身を読み始めた。

2015.04.29
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