Marguerite

予想外のことに泣きたくなった

 
腕の中で突然の出来事に驚いて今にも泣き出しそうな朱美ちゃんを宥める。多分、それほど時間が経たないうちに中にいる人間を確認する為にエレベーターの扉は開くだろう。

「朱美ちゃん、怪我はない?」
「へい、きっ…」

私にしがみ付いている朱美ちゃんを抱き上げて、非常用ボタンを押す。どうやら自動的にコールセンターへと繋いで救助を呼んでくれるらしく、無駄に立ったままで体力を消耗したくはないと思いながらその場に座り込む。

「大丈夫、今救助の人呼んだからすぐに助けがくるよ」
「ほんと?」
「本当だよ。下で待ってるお母さんにもすぐ会える。ほら、ジャムちゃんと一緒にお話してよう?」
「うん…!」

朱美ちゃんに笑顔が戻ったことに安心して、小さく息を吐く。口元に孤を描きながら、明るくなるような話題を選びながら2人で話し始めた。

 + + +

どれほど、2人で話していたのだろうか。突然の大きな音に、朱美ちゃんの身体がビクリと揺れた。その音は扉の方からで、大きな音を立てながらゆっくりと扉を開く。無理矢理にこじ開けられたそこは、子供が1人通れるか通れないかぐらいの隙間。その先には、何事だと言わんばかりに人だかりが出来ていた。

「朱美っ…!」

人だかりの中にいた1人の女性が、声を上げた。どうやらその人が朱美ちゃんのお母さんらしく、朱美ちゃんもその声に反応してお母さんを呼んだ。すぐに朱美ちゃんがパッと私の元を離れてその隙間に向かうも、エレベーターの高さが高すぎてそのままでは抱きとめることが難しい。それに気付いて持ってきたのか、それともたまたまなのか。どこからともなく東都タワーの係の人だろうか、パイプ椅子をその場に置いた。朱美ちゃんのお母さんはその椅子に乗って、エレベーターから出てくる朱美ちゃんをようやく抱きとめた。

(一般人は、コレで安全になった…)

エレベーター内に座ったまま、朱美ちゃんがすり抜けた隙間を見る。それは子どもが1人
通れるか通れないかぐらいの隙間しかなく、私が通ろうと思っても体が引っかかって出ることは叶わないだろう。エレベーターの外にいた男の人もそれに気付いたのか、この隙間じゃ大人は難しいな、と呟いた。
エレベーターの扉へと近付き、隙間を覗き込むような姿勢で外を見る。そこにはエレベーターの奥から見て思った以上に人がいて、ある意味出れなくてよかったんじゃないかとも一瞬だけ考えた。
いっそこのまま高木刑事とコナン君が出てくるよりも先に爆弾を見つけてしまおうか、と一度エレベーターの天井に視線を向ける。けれど、如何せん私一人ではエレベーターの天井には手が届かない。恐らくエレベーターの外に置いてあるパイプ椅子を中に入れてもらえば天井に手が届くだろうが、あまり変なものを持ち込んでそれが衝撃の引き金になっても怖いものがある。まぁ、結局犯人は一度このエレベーターを爆破するのだろうけれど。

(でも、やっぱり先に見つけるに越したことはないよなぁ…)

一応私ならヒントを見なくても場所が分かっているし、1人の方が何をしていようと犯人からは分からない。メールでその場所をコナン君にメールしたっていいわけだ。何で分かったのか、と言われたら多少面倒ではあるけれど。

「そこの椅子、お借りしてもいいですか?」
「コレかい?別にいいけど……」
「有難う御座います。もしかしたら、上からなら出られるかもしれないんで…」

目の前で一度折りたたまれたパイプ椅子を受け取りながら、ちょっと天井開けさせてもらいますね、と伝えてエレベーターの真ん中に椅子を開く。さすがに靴のまま上るのはよろしくない、と思い靴を脱いで椅子に上がろうとしたとき。

「こ、これですか…。止まったエレベーターは…」

タイミングがいいのか悪いのか。外から、高木刑事の声がした。姿と声は確認していないけれど、恐らくコナン君もすぐに来るのだろう。外にいる人が高木刑事に説明をしているのを聞きながら、パイプ椅子の上に立って天井へと手を伸ばす。

(…あれ、)

手を伸ばした腕が、止まる。確かに私の身長は高くはない。成人女性の平均より低いのも認めよう。普段はヒールで身長が高く見せていることも認めよう。けれど、さすがにコレはギリギリいけるのではないだろうかと思っていた。けれど、背伸びをしても天井にかすりもしない。手は、空を掴むだけで終わる。

「じゃあ、僕を持ち上げて!」

片腕だけを伸ばして天井に届かないかと試している私の動きが止まる。聞き覚えのある声にヒクリと顔を動かして外を見れば、姿は見えないけれどどうやら事件ホイホイ死神ホイホイの彼は外にいるらしい。

「呉羽姉ちゃんが僕を持ち上げたら、そこの蓋も開くでしょ?」

どうしてこんなにも彼は頭が回るのか。主人公チート過ぎるだろう、と思いつつ苦笑を浮かべた。

2015.05.13
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