パイプ椅子の上から降りて、コナン君がエレベーターの中に入ってくるのを見る。主人公とは言えどうしてこんなにも事件に遭遇するのか。普通の小学生なら確実にトラウマものだ。
小学生ではないにしても、人の死体に見慣れた一般人というのもどうなのだろうか。あまりに何度も見ていて耐性でも付いてしまったのか。
「…コナン君、天井の蓋を開けても上に行ったらダメだよ」
「大丈夫だよ、危ないことはしないから」
正直その笑顔が怖い。地面に膝をついて、コナン君が私の方に乗りやすいように背を向ける。彼が器用に私の背中から肩に乗ったことを確認して立ち上がろうとしたとき。
「きゃっ…!」
エレベーターを、激しい揺れが襲う。そして、同時に突然の浮遊感。一気に下へと落ちるエレベーターとは逆に浮かび上がりそうな身体。私よりもずっと体重が軽いコナン君の腕を掴んで、反対の手で地面に身体を押し付けるようにパイプ椅子を掴んだ。
+ + +
揺れが収まって、胸を撫で下ろす。それと同時に、自分が守られるように庇われていることに気付く。それは私に肩車をされたままだったコナン君ではなくて、エレベーターの外にいたはずの高木刑事。恐らく、咄嗟に落下するエレベーターに乗ったのだろう。一般人だけを閉じ込めるわけにはいかない、という刑事としての行動なのだろうか。
「高木、刑事…」
ふいにコナン君がひょい、と私から降りて、私は自分を庇うようにしていた彼の名前を呼ぶ。外にいてくれたら、安全なところにいられて巻き込むこともなかったのに。
「痛たたた…、二人共、大丈夫かい?」
「僕は平気だけど、呉羽姉ちゃん大丈夫?」
「っ、平気、です…」
半ば高木刑事に抱きつくような体勢になってしまっていたことに気付いて、パッと離れる。何でこんなところで妙なフラグを立てようとしているんだ私。吊り橋効果なんて望んでいない。
急な出来事にバクバクと脈打つ心臓を押さえながら、天井を見上げた。
「これは、本格的に上から出るしかなさそうですね」
「そうみたいだね…」
私の言葉に同意するように、高木刑事が立ち上がりながら言う。ちらりとコナン君を見れば、何かを考えるような動作をしながら天井の蓋を見上げている。
「高木刑事、私のこと肩車して貰えませんか?」
「ええっ!?」
「子どもにさせるよりは私の方がいいかと思うんですけど…」
コナン君危なっかしいし、と付け足すように言えばコナン君が苦笑いをしていた気がするけれど、それはこの際無視である。でもなぁ…と私を肩車することに乗り気じゃないのは、やっぱりセクハラになるか否かということなのか。コナン君も同意見なのか、やめた方がいいと思うけど、なんてことを言っている。
「非常時ですしセクハラだなんだなんて言ったりしませんけど…」
「そういう問題じゃないんですが……その、女性なわけですし」
ごめんなさい、実年齢は恐らく貴方より上です、と心の中で高木刑事に謝罪をしておく。そのとき、コナン君が隣で何かに気付いたように高木刑事を見上げた。
「………高木刑事、呉羽姉ちゃん高校生だよ」
「…え?」
「……え?」
高木刑事がコナン君を見ながら聞き返す。それを見た私が、高木刑事を見ながら聞き返した。一時、エレベーター内に沈黙が流れる。
「あ、の……もしかして、成人してると…?」
「あ、ははは……」
「してたんですね…」
ちなみにいくつぐらいだと、と聞けば僕と変わらないのかなぁなんてとか言われて苦笑いを浮かべる。中身か。中身がやっぱり外側と違うから何かしらが滲み出ていたのだろうか。事情聴取したことあるから年齢だって資料には書かれているだろうに。こればっかりは仕方がない、と高木刑事に向けて笑みを浮かべた。
2015.05.19
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