「秀一さん、やっぱり行かなきゃダメ、ですか…?」
「何度も言っただろう。危険過ぎる」
「そう、ですけど……」
やっぱり、心配ですよ。そう言うと、彼は私を安心させるように頭を撫でた。
18時30分。横浜のとある港の近くに、秀一さんが私を送る為に車を出してくれた。行きたいのは山々なのだけれど、この後に何があるかを知っている私からしたら不安しか無かった。私がこの車を降りたら、彼はジョディさんと一緒に港でベルモットと真っ向勝負だ。原作では怪我1つないけれど、ここがそうなるとは限らない。
(ベルモットは、私を引き離したいんだろうなぁ…)
私は、ベルモットに目を付けられている。それが未だに殺すためなのか巻き込まないためなのかは分からないけれど、真っ向勝負から引き離そうとしたということは後者な気がしてきている。
それでも、私が真っ向勝負に加われば毛利さんだって危ないことはさせないし、出来ることならジョディさんにも極力怪我をさせないように出来ると思う。けれど、秀一さんの答えは危険だから、の一言でノーの一点張りだ。最後に、と思ってちょっと聞いてみても結果は変わらなかった。
「お前が知っている未来で俺がどうなってるかは知らないが…約束する。生きて帰って来るとな」
「絶対、ですよ…?」
運転席に座る秀一さんの服を掴みながら聞けば、あぁ、と短く答えが返ってきた。それと同時に、私は秀一さんに引き寄せられて腕の中へと閉じ込められる。
ふわり、と風に乗るように香る煙草の匂い。それを胸いっぱいに吸い込んで、秀一さんにぎゅっと抱きつく。
ドクン、と、秀一さんの胸から聞こえてくる心地の良い心音。大丈夫、彼は、生きて帰ってくる。頭ではわかっているけれど、信じているけれど、少しだけ、怖い。
「呉羽」
「何…んっ、」
秀一さんに名前を呼ばれて顔を上げれば、唇が重なる。離れるということを受け入れさせるように、熱く、深く。
仮装の為にしている化粧が落ちるとか、船に乗らなきゃいけないのに、とか言いたいことはあるのに、それは言葉にならずに飲み込まれる。
「っ、ぁ…んん、」
ぎゅっと秀一さんの服を掴んで、私の身体はされるがままに彼の舌を受け入れる。逃げようとしても私のすぐ後ろはシートで、逃げることが出来なかった。
長いことキスをして、最後に名残惜しむように唇を舐められながら秀一さんが唇を離して、そのまま首筋に移動しようとしてその動きが止まる。
「首筋は、ダメだな」
フッ、と笑いながら、秀一さんの指が私の首筋をなぞる。ドレスを着ているから、今ここにキスをされたらそのまま痕が見えてしまう。それを言っているのだろう。
首筋は諦めたのか耳元にキスをして、次に頬へと場所が変わる。
「…最近、ちゅーばっかしてますね?」
「抱かれたかったか?」
「そういう意味じゃ、ないですけど…」
真顔で問い返されて、彼の胸元に顔を埋める。何でだろうか。少し前に初めて抱かれたのだけれど、それからというもの秀一さんからのスキンシップが増えた気がする。嫌じゃ、ないけど。
フッ、と秀一さんが笑うのが分かって、顔を上に上げる。秀一さんは私が思っていたよりも運転席から助手席に身を乗り出していて。刹那。
「きゃっ……」
シートが、後ろに倒れた。私が後ろに倒したわけじゃないということは、したのは秀一さんで。それによって、私はシートに押し倒されたような形になった。
「え……」
「いっそ、ここで抱いて気絶させてもいいんだがな」
楽しげに口角を上げる秀一さんに対して、私の口角は引き攣る。車の中ですよ、と言ってみてもだからどうした、なんて言い出したものだから余計に身体は強張る。
「冗談だ」
「……秀一さんの冗談は冗談に聞こえないです」
「そうか?ほら、時間があるだろう」
ちゅ、と私の額にキスをして、起き上がらせる。むしろ引き止めたのは秀一さんじゃないのかと言いたかったけれど私も受け入れたからフィフティ・フィフティだろうか。
「怪我、しないでね?」
「お前もな」
最後にもう一度キスをして、車を降りた。
2015.06.30
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