「ねえ狼男さんとミイラ男さんの姿が見えないけど…」
「トイレじゃねえか!?」
「探しに行ってみる?そろそろ宴も始まりそうだし…」
周りもグループが集まり始めた頃、狼男さんとミイラ男さんの姿が消えた。あぁ、とうとう始まったのか、と思いつつトイレの方へと移動する彼らに付いていく。話すことが出来る三人を前に、私と服部君が後ろから追うように歩く。喋れないって、結構暇だよな。そんなことを思ってチラリと服部君を見るも彼の表情は見えず。普段の賑やかさからしたらえらい違いだと思ったのはここだけの話だ。
(実際に見たわけじゃ、ないけど)
もともと工藤家で初めましてな状況で、その後会話という会話をあまりすることなく仮装状態になった。一応そのときに携帯の連絡先は交換したものの打ち解けたのかと言われれば少なくとも私の中では答えはノーだ。第一声に沖田の女やん、なんて言われたのを気にしているわけじゃないとは思う。多分。
船の隅にあるトイレはいくら船の中だとしても結構な汚さで。恐らくは演出なのだろうけれど出来ることなら私は入りたくない。割られた鏡、男女共用…。挙げればいくらでもあるんじゃなかろうかというソレに息を吐きながら携帯を取り出す。
ミイラ男さんがスタッフだと気付いていてなのだろう、演技をしている別のチームになってしまったフランケンさんを見る。トイレの中でまで演技かよ、と毛利さんが呆れたような声が聞こえた。その間に鈴木さんは狼男さんとミイラ男さんがいるかどうかを尋ねる。
そのとき、辺りに狼の遠吠えが響いた。
バンッ、と大きな音を立ててトイレの扉が開く。そこから現れたのは狼男さん。トイレの入り口でたむろしていた私たちの間を通って勢いよくトイレから出て行った。茫然とする毛利さんたちに、私の口元は弧を描く。何故なら、フランケンさんも茫然としていたのだから。
(服部君も気付いてはいるみたいだし、私の出る幕はないかなぁ…)
一応、いつでも助言が出来るように通信アプリは起動しておくけれども。何かあったのか、と鈴木さんらが話しているのを聞きながら、小さく息を吐いた。
+ + +
何か、嫌な予感がする。嫌な予感?何かが起きそうな感じ。勘か?しいて言うなら女の、ね。
言葉を封じられている私と服部君の携帯に、文字が並ぶ。私も服部君も言葉を発することが出来ないので飲み物を注文することさえ出来ないのだ。というか、私はともかく服部君は筆談等で注文することは出来ても飲むことが出来ない。全身に包帯を巻いて顔を隠せるということはこういうところで不便だな、と思いつつバーカウンターで飲み物を注文する同じチームの人らを眺める。
(シルバーブレッド、かぁ……)
ベルモットは、工藤君を思い浮かべながらシルバーブレッドは一発で十分と述べていた。ベルモットから見て、秀一さんはそれに成し得ないと判断されているということだろう。
そんなことを考えているとふいに電気が消えて、辺りに亡霊船長の声が響く。私の知っている流れの通り、ミイラ男が見つからないまま宴の時間になったようだ。
『どうやら、この魔界のパーティに…醜くもなく、魔力も持たぬただの人間が混じっているようだ…』
辺りには、こんなときでも自分をアピールするモンスターの声が響く。放送はモンスターを甲板に出るようにと促して。皆、それに誘われるように走って甲板に向かう。一斉に向かうその姿を見つつ、人がまばらになった頃に私と服部君は向かう。
甲板に出れば遠巻きにも分かるように亡霊船長が外にぶら下がっている姿に思わず息を飲む。知っていても、これはなかなかキツイものがあるかもしれない。
ただ、服部君は探偵の性だろうか。私の腕を掴んでモンスターをかき分けながら中心へと入っていく。恐らく、気付いたのだろう。
「こりゃまた派手な演出だねぇ…」
毛利さんの声が、辺りに響く。でも、上からはポタポタと血が落ちてきて。それに気付いた服部君と有希子さんが、本物なことを確かめる。
「早く!誰か彼を降ろして!」
有希子さんが言うのとほぼ同時に、ズッ、と音を立ててロープから脚が外れる。支えを失ったソレは中に投げ出され、勢いをつけながらドシャッ、と大きな音を立てて私らの足元へと落ちてきた。
胸元にはボーガンの矢で悪魔のカードを射抜かれているソレを見た誰かの悲鳴が、真っ暗な夜の空に響いた。
2015.08.19
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