Marguerite

事件の舞台裏で

 
「ボーガンの矢で心臓を射抜いてやがる…。しかもご丁寧に悪魔のカードを添えて…」
「悪魔をあの世への案内人にしたってところかしら?」

毛利さんと有希子さんを中心に、遺体を取り囲む。胸元には痛々しくボーガンが突き刺さっていて、苦手な人ならば思わず目を背けたくなるものだろう。
矢に刺さっている見覚えのあるカードを見て、つい自分のカードがちゃんとあるのかを確かめる。そっとポケットに手を入れれば、そこにはちゃんとカードがあって、絵柄も悪魔のカードだったことに安堵の息を吐く。

(わざわざ私がこの場所にいる必要も無いかな……)

遺体のお面が外されてそれが映画のプロデューサー、福浦千造であることを確認して、その場を離れる。
足元を確認しながら歩けば、そこには確かに妙な傷がある。誰が犯人で、殺害方法も証拠も知っている、というのはこういうときに便利だと思いながら服部君にちょっとトイレに行ってくる、と連絡をしておく。恐らく一度悪魔のカードを持つ人達は集まるだろうから、それまでの間だけで十分だ。
まだ甲板に人だかりが出来ている為、船内にはスタッフらしき人がちらほらといるぐらいだ。これなら状況の確認もしやすい。あたかもトイレに行きます、という顔をして、トイレに向かう。妙に綺麗な廊下を通って、トイレの扉を開く。…相変わらず、汚い。仕様、なのだろうけれど。

(割れた鏡にトイレ上部の空間…。まぁ、確認するまでも無かったかな)

どうせ、服部君に任せておけばこんな謎はなんてことないだろう。一応、工藤君とも繋がっているわけだし。そろそろ戻るか、と携帯を確認して船内に戻る為踵を返す。

「………げ」

包帯で殆ど顔は分からないけれど、呆れたように腕を組んで立っている包帯男…基、透明人間がそこにいた。恐らく、携帯よりも直接行ったほうが早いと見越して呼びに来たのだろう。

「一応容疑者なんやから、チョロチョロすんなや」
「気になったことはすぐに確認しないと気がすまないもので」
「何かあったんか?」
「大したことじゃないかもしれないけどね」

甲板にあった傷、もしかしたらコレかなって。そう言いながら鏡を指させば、服部君は暫し考えた後に口角を上げる。同時に、トイレの上部の空間を確認した。彼も甲板の傷には気付いていて、妙には思っていたらしい。

「ただ、悪魔のカード持った人たちに話を聞かないとなんとも言えないけどね」
「ソレや!カード確認する言いよったんやった!」
「先に言ってよ…」

やっぱり私のことを呼びに来たんじゃないか、と思いながら息を吐く。探偵というものは誰も彼も謎解きとなると夢中になってしまうのだろうか。
呼ばれたのは分かっていたことだし、悪魔のカードが矢に刺さっていた以上確認するのは当然のことだ。自分のカードをポケットから取り出してトイレを出て毛利さんたちがいるところへと向かうべく脚を進める。
船内にはすでに結構な人がいて、人混みの中に悪魔のカードを配られた人たちが固まっているところを見つけた。有希子さんがわりと楽しげに私に向けて手を振ってくれたけれど、正直今はそれどころではないのだろうか。

「んじゃあ、まあ…自分の持ってる悪魔のカードを見せてもらいましょうか……」

毛利さんのその言葉に、その場にいたうちの6人がカードを出す。けれど、ミイラ男さんは自分の服を探すだけでカードが出てこなかった。

「ん?どうかしたんスか?ミイラ男さん?」
「あ、あれ?ど、どっかに落としたかな…?」
「ハハーン…さてはあんた、わざと自分のカードを矢に刺し容疑者から外れようとしたなぁ?わざと自分のカードを凶器に添えるなんて事、犯人がするわけないという心理を逆手に取って…」

船内の人の視線が、毛利さんとミイラ男さんに集まる。確かにそういう犯行をする人もいるだろうけれど、その犯行はあまりに単純だと思ってしまうのは私だけなのだろうか。殺人なんてする予定は無いし、正直私には無縁だけれど。

(誰かに奪われた、って考えるのが妥当だよね……)

ミイラ男さんがスタッフであることや指示内容などを毛利さんに話しているのを聞きながら、隣に立っている透明人間を見る。ジッ、とミイラ男さんを見ている彼の姿を確認して、私は笑みを浮かべた。

2015.08.19
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