Marguerite

透明人間か、それとも

 
ポケットに入れていた携帯が震えた。毛利さんとミイラ男さんが話している途中なのを申し訳なく思いながら携帯を開けば、それは通信アプリからの通知。画面には、『ちょっと話聞いとってや』とだけ書かれていて、気づけば傍にいた服部君がいなくなっていた。

「呉羽ちゃんは、いかなくてよかったの?」
「…一応、私の方でいろいろと確認は済ませたので」

後は多分、彼が全部解いてくれますよ。そういえば、有希子さんはクスリと笑う。

(とりあえず、彼には今の状況連絡しておくかな…)

狼男さんとミイラ男さんが一緒にトイレに行ったこと。トイレにはフランケンさんがいて、フランケンさんはトイレに入るのは見たけれども出るのは見ていないこと。鏡が雰囲気作りのために割られたものではなかったこと。
毛利さんとミイラ男さんが話していることを通信アプリで伝えればすぐに読んだことが知らされた。そして携帯をポケットに戻そうとした時。甲板に出てこいという旨が書かれた画面が表示された。
相変わらずいいように人を使ってくれるな、と思い小さく舌打ちをしながら甲板へと出る。
外に出れば、空には満月が浮かんでいる。それを背に、彼はマストに立っていた。

「謎は解けたの?」
「あぁ。後は工藤の声で話すだけや」
「で?何でわざわざ私を呼んだのよ」
「工藤が何かしらで喋れんようなったときにフォローしてもらおう思ってや。備えあれば憂いなし言うやろ?」
「備え、ねぇ……」

私は探偵じゃないんだけど、と彼に言ったところでどうせ聞く耳を持たないだろう。それよりも、だ。

「それは、私にマストに登ってこいってこと?」
「別に高いとこぐらい平気やろ?」
「ヒールで網を登って来いなんて無茶ぶり、困るんだけど」

嫌味を交えて言えば、そらそうやな…と彼は苦笑いをした。けれど下にいろと言わない辺り登って来いということなのだろう。小さく息を吐いて、マストへと続く網に触れる。ボロいように作られていても、海に出られるぐらいだからそれなりに造りはしっかりとしているらしい。

「登れるんか?」
「登れって言ったのはそっちで…しょ!」
「ホンマ、恐ろしい女やで…」

服部君の言葉に、わざとらしく何か言った?と聞き返せば苦笑いをされる。いや、包帯で見えないから多分だけど。
登りにくいのを我慢してなんとかマストへと登れば、服部君の足元には鶏が1羽。そういえばこのコもいたんだっけ、と思いつつ軽く触れれば思ったより人馴れしていたのか突くこともなく触らせてくれた。

「それで、私はここで鶏と遊んでればいいの?」
「嫌味なやっちゃなぁ…。コレ、放送入っとんのか?」
「マイクは切ってない筈だけど。推理ショー、やるの?」
「工藤の準備も出来たみたいやしな」

亡霊船長のマスクを手に、服部君が言った。軽くトントン、と叩けばマスクにノイズが入るのでどうやらマスクは生きているらしい。
ふと服部君の手を見れば携帯は有希子さん、同時に工藤君と繋がっているらしい。毛利さんとミイラ男さんが言い合っている声が聞こえる。…グループ通話とか仲良しかよ、とちょっと思ったことは秘密にしておこう。

『この犯行は、アイバイもなければカードも持っていないミイラ男さん…あんたしか考えられねーん…』
「そいつは検討はずれだぜ毛利探偵…」

工藤君の声が、船に響き渡る。

「それじゃあ、真実はまだ…闇の中…」

相変わらずキザな言い回しだ、と思いつつ私は特にすることもないので鶏を撫でる。原作では暴れていたけれど、恐らくは狭いところにつながれてストレスからなのだろう。もしくは、単に私が懐かれたのか。傍に寄り添う鶏の頭を撫でながら、響き渡る工藤君の声に耳を傾ける。
バン、と音がしてだ、誰だ!?という声とともに毛利さんが甲板に現れた。

「あなたは事件を解く鍵を…」
「だ、誰だ!?」
「すでに飲み干したというのに…」
「どこにいる!?」

毛利さんの後ろからは、次々とスタッフを始めとした怪物たちが現れる。毛利さんたちは彼がマストにいることに気付いたらしく、上を見上げた。

「残念です…」
「お、おまえは…透明人間!!」

彼の持っていた亡霊船長のマスクが、私に渡される。そして彼は帽子と包帯を手に取り、それをするすると解いていく。

「さぁ謎解きを始めましょうか…。闇夜を照らす…」
「その声、その口調…まさか…」
「月光の下で…」

楽しげにいう声に私も口元に孤を描きながら、月光の下で解かれていく包帯を見た。

2015.09.08
prev|90|next
back
ALICE+