「お、お前は…探偵ボウズの…工藤新一!?」
「ウ、ウソー!!!」
「何でお前がここに!?」
死んだ、と噂されている高校生探偵が突如現れて、甲板にいる人がざわつき始める。ちらりと有希子さんを見れば、彼女は楽しげに笑みを浮かべている。ただ、その後ろにいるウォッカは驚いたように船橋に立つ彼を見ていたけれども。
(あれ、ウォッカって私の事知ってたっけ…?)
10億円事件のときのことを、マストで鶏を撫でつつ思い出す。…いたな、忘れてたけど。座っているけれど、私の姿はウォッカから見ても見える場所だ。多分、私の存在にも気付いているのだろう。
「ハッハッハァー!!カッコつけて出て来たところ悪いが……もうこの事件のカタは着いてんだよ!被害者は、今、お前が立ってるマストの上で問題のヒントを出そうとしていた…この福浦さんで…犯人はその彼をパーティー会場である下の船室から抜け出し、このくらい甲板に出て、悪魔のカードを添えたボーガンの矢で射抜いた人物……」
これくらい分かって当然だ、とでも言うように毛利さんが喋る。ミイラ男さんがカードを持っていないから犯人、というのも単純過ぎるけれども、案外そういう犯人もいたりするから探偵というのは中々大変な仕事だ。犯人では無いのに、犯人であるかのように全ての謎を解き明かさなければいけないなんて。
「この推理のどこが検討外れっていうんだ?おい!何とか言ってみろ!!」
「あ、失礼…ちょっと風邪気味でノドがね…」
風邪気味なのは哀ちゃんですね、と内心思いつつ何も言わずに彼を見上げる。早く哀ちゃんとも打ち解けたいものである。正直トリップしてきた頃の私なら避けて通るのだろうけれど、ここまでいろんな人と関わってしまった以上中々難しい。というか自分で蒔いた種ではあるけれど私組織に狙われているし。
「えーっとアリバイとカードでしたよね?カードは多分、ミイラ男さんに罪を被せるために犯人がスリ取ったんでしょう…そこにいる…狼男さん、あなたに…トイレの中でね!!」
「トイレだとォ?」
見た目が工藤君である彼がそれこそ工藤君の声でスラスラと見ていたかのように推理を披露していく中、狼男を見る。彼は何も言わずにこちらを見上げている。毛利さんがミイラ男さんにそうなのかと尋ねても、ミイラ男さんは覚えていないらしくさぁ…とだけ言った。
「覚えていないのも無理はない…。恐らく狼男さんはミイラ男さんが入ったトイレの隣に入り、トイレの下の隙間からクロロホルムのような麻酔薬を注射器か何かで注入し、気化したそれをミイラ男さんが吸い、意識を失った頃合いを見計らって、こっそり上のスキ間から侵入して、カードを抜き取ったんでしょうから……」
よく考えたらこの犯行、かなりリスクを伴うものなのではないだろうか、と思ったけれどもそもそも殺人というものはどんな風に行うとしてもかなりリスクを伴うものだった、と思い直す。
上を移動するのを見られたらどうするんだ、とか万が一ミイラ男さんが寝てなくて目が合ったらどうするつもりだったんだ、ということはこの際触れておかないでおく。
「お、おい…。そんな証拠どこに?」
「証拠なんてありませんよ……。これは考えられる一番簡単な方法を言ったまでの事…。その麻酔薬も注射器も海の中でしょうしね…」
この広い海の中だ。海に落としてしまえば、そう簡単には見つからない。船の上の殺人というのは、小さなもの限定に近いけれども簡単に証拠を隠せるのが利点かもしれない。する予定は無いけれど。
毛利さんはなんでそれをやったのが狼男なのか、と誰もが思う疑問をぶつける。狼男さんは、確かに常に私達の近くにいた。…あくまで、マスクだけ。包帯の上からマスクを被らされている為にそれに気づいていないミイラ男さんが、毛利さんに私が出ているところを見ていたでしょ、と詰め寄るように言うけれど、マスクのせいで彼らの言葉は辻褄が合わずに意見が食い違う。
「その謎を解く鍵はフランケンさんが握ってます…。話してくれませんか?あなたがトイレの中でまで怪物になりきってアピールしていたわけを…。あなたがトイレで見せたあの驚いた顔の理由を…」
怪物たちの視線が、フランケンさんに集まる。それに合わせるように、フランケンさんは言葉を紡ぐ。ホラーファンの間では、パーティー中にメールを打っている人が映画スタッフだと有名であるということ。だからミイラ男さんがスタッフだと分かってトイレから出るまで演技をしていたこと。けれど、ミイラ男さんが入っていたトイレから出てきたのは、狼男さんであったこと。
(それを最初に言ってくれれば捜査ももっとスムーズに進む気がするんだけどなぁ…)
結局謎は解けているのだから、あまり関係の無いことではあるのだけれども。それに若干言いづらいことなのかもしれない。誰に言えばいい、と分かるわけでもあるまいし。
「そう…。犯人はトイレで眠らせたミイラ男さんに罪だけじゃなくある物も一緒に被せたんですよ…。狼男である自分のマスクをね!!」
淡々と、推理ショーが進んでいく。トイレの窓が割られていた理由、ミイラ男さんがマスクに気付かなかった理由、ネクタイの色が違ってもごまかせること、白い手袋をしているという共通点…。
内心探偵って頭良すぎてバカなんじゃないの、と思ったのは言うまでもない。
(ここまで見てたかのように言われたら私なら耐えられないなぁ…)
発狂しない犯人凄いなぁと、とうとううつらうつらし始めた鶏を眺めながら思う。というかここまで解き明かしておいてまだ抵抗する人がいる辺り凄い。私なら開き直る。
とうとう私の隣に立つ彼が殺害方法まで甲板にいる怪物たちに向けてアリバイを作った狼男さんが福浦さんをボーガンで射殺したことを言う。混雑に乗じてミイラ男さんから狼のマスクを外して被り直し、乗客に紛れ込んだことも。
「どこか間違っていますか狼男さん?」
煽るように言う彼を見て、私は小さく息を吐いた。
2015.09.13
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