「フン…高校生探偵だか何だか知らねーが…言いたい放題言いやがって…。証拠はあんのか?俺がやったって証拠は!?」
「あなたが犯人だと指し示す物ならありますよ、ここに二つ…」
私の隣にいた鶏を、拾うようにして私の隣にいた彼が抱え上げた。いきなり起こされたからなのだろうか。鶏は彼の手の中で暴れるようにバサバサと羽を動かす。
「一つはコレ!この怪物達の中に人間が混ざっているという、例の問題のヒントです…」
「に、鶏!?」
「恐らく福浦さんは、スポットライトを浴びながらこうするつもりだったんですよ…」
鶏が、逆さ吊りにされる。バタバタと暴れ続ける鶏を見て、下にいた鈴木さんと毛利さんが不思議そうにしているけれど、隣にいた有希子さんは逆さまにされた鶏の意味に気付いたらしく、なるほどね、と言葉を漏らす。
「鶏の雄はCock、尻尾はTail…。その昔、雄鶏の尻尾で他種類の酒を混ぜて作り、その雅名がついたっていう…Cocktailの語源よ…」
「ヒントがカクテル?」
「毛利探偵…あなたも飲んだでしょ?そのカクテルを…」
逆さまにされていた鶏が私の手元に返される。少し興奮しているような鶏を宥めるように抱っこして、赤子を慰めるように少し身体を動かしながら撫でる。…私はこのためだけにマストに上がらされたのだろうか。
下を見下ろせば毛利さんはバーで飲んだカクテルを思い出す。名前を言おうとした毛利さんを遮るように、後ろからミイラ男さんがそのカクテルの名前を出す。
(シルバー・ブレットって、飲んだことはないなぁ)
確か、ジンとキュンメルとレモンジュースだっただろうか。身体が成人をしたら秀一さんにお願いして飲ませて貰おうか、と思いつつ再度下を見る。そこでは、狼男さんが俺も飲んだ、と言ったのを聞いて口角を上げる。
「本当に飲んだんですか?自分の狼男をアピールして映画に出たがったあなたが……」
「あぁ…。景気付けにな…。それとも何か?狼男が酒飲んじゃいけねぇのかよ!?」
声を荒げる狼男さん。嘘は嘘で塗り潰すしかない。自身の発言がまるで蔓のように絡みついて。やがて取り返しがつかなくなって。結局は自身を苦しめていくというのに。
「本当にシルバー・ブレットを?」
「しつけぇなァ!俺は飲んだんだよ!!シルバー・ブレッ…ト!?」
狼男さんがそのお酒の名前を自身の口で唱えたことで、ようやくその意味に気付く。ホラーファンだけど知らなかった、と言っても結局はボロが出て取り返しの付かないことになるのだろう。
私の隣に立つ彼は、その言葉を待っていたというように言葉を続ける。
「そう…。シルバー・ブレット、銀の弾丸……。ホラーファンなら知らない人はいない狼男の息の根を止める唯一の武器……。それと同時に魔除けの酒でもある……」
淡々と、彼が推理を続けていく。少しばかり彼の言葉が途切れ途切れになるのは、向こうで何かがあったということなのだろうか。恐らくはまだ、ジョディさんの車の中にいるのだろうけれど。
ポケットの中の携帯を握りしめて、下を見下ろす。下では、有希子さんがミイラ男さんの包帯を外していて、それによって人間だと書かれた額があらわになる。
「んで?もう一つの証拠っていうのは?」
「ボーガンの名手でも、カードを矢に指して遠くから人を射抜くのは不可能です……。もちろん不安定なこのロープの上からもね…。確実に仕留めるには、ここまで登って至近距離から発射しなければならない…。その時、狼男さんがここに立った跡が残っているんですよ…」
彼がしゃがんで、足元にある跡を見る。それは、やがて鏡の破片と一致するはずだと告げて、また立ち上がって狼男さんを見下ろす。俯いた彼は、毛利さんに声をかけられてようやく口を動かした。
「お、俺じゃない…。悪いのはあの悪魔…」
「あん?」
突然の言葉に、しゃがみ込んだ毛利さんが怪訝そうに狼男さんを見る。
先を知っている私は、膝の上で眠りこける鶏を見ながら歯を噛み締めた。
「ベ、ベルモットっていう…あの悪魔なんだよ!!」
2015.09.28
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