Marguerite

矛盾と空白の答え

 
「お前、大丈夫なんか?」
「多分、ね。殺すつもりは、ないと思うよ」

私を港から引き離したのだから、きっと、そういうこと。けれど、どうしても彼女に訊きたいことがある。前に会ったとき、『今回だけは見逃してあげる』と彼女は言った。と、いうことは。少なくともあの時点では私の命を狙うつもりはあったということなのだろう。それなのに、どうして今回はわざわざ私を引き離したのか。

(本当に殺すつもりなら、哀ちゃんをおびき寄せたように私もそうすればいい筈……)

矛盾している事実は、何か裏があるはずだ。それを、確かめたい。

10号線までバイクで乗せて来てくれた服部君にお礼を言って別れる。彼を、これ以上巻き込むわけにはいかない。
電話ボックスの中で座り込んでいる人を見つけて、その電話ボックスの扉を開く。座り込んでいる彼女は、ゆっくりとこちらを見た。

「何しに、来たの?」
「少し、話がしたくて」

撃たれたところが、痛むのだろうか。座ったまま、私を見上げるベルモット。ジンが、こっちに向かってるわよ。そう言ったけれど、さすがのジンも街中で銃を向けては来ないと思いたい。今の私は生憎防弾チョッキなんてものは身に着けていないから撃たれたら場所によっては即死だ。

「…どうして、私を港から引き離したの?」

最初に会ったときは、殺すつもりだったんでしょ?そう尋ねれば、ベルモットは暫く私のことを見て口角を上げた。まるで、何かを思い出すかのように。

「頼まれただけよ。貴方を、巻き込まないでくれって」
「私を?誰に?」
「さぁ…。教えられないわ」

ベルモットの言葉に、唇を噛みしめる。私は、組織に知り合いなんていない。ジンとウォッカ、ベルモットには顔を知られている。けれど、それ以外に知り合いなんてものはいない。勿論、明美さんもそんなことは頼んでいないだろう。

(安室さんにも接触はしてないし、誰…?)

勿論、水無さんにも接触はしていない。そもそも、接触していたとしても彼女は自身が疑われるようなことはしないだろう。

「早く恋人のところに戻らないと、ジンが来て殺されるわよ」
「貴方たちは、私の、何を知っているの…?」
「貴方が知っている人で貴方を知る人は、私とジン、ウォッカしか知らないわ。ジンは、自分の手で捕まえたいみたいよ」

自らの手で捕まえたいのは、あれだけ挑発したからだろうか。捕まったときが大変そうだからこれは意地でも逃げなければいけないだろう。
電話ボックスに寄り掛かって、彼女を見下ろす。ジンが来るまでは、まだ少しあるだろうか。

「一方的に、私を知っている人がいるってこと?」
「…さぁ。後は、貴方が赤井秀一の恋人だってことぐらいかしらね」

どうやら、ベルモットはその辺りを詳しく答えてくれるつもりはないだろう。組織の人間で他に私が話せそうな人はいない。そうなると、ベルモットが答えてくれない以上はこれ以上聞いても無駄だ。

「ありがとう」

ベルモットにお礼を言って、その場を離れる。小さく、変なコ、なんて言葉が聞こえたけれどもそれはお互い様だろう。誰に言われたか知らないけれど、明らかに危険であろう私を殺さずに生かしておくなんて。

(秀一さんに、会いたい、)

無事である、ということを頭では理解していても、実際に目にはしていない。この目で確かめて、安心したい。
そう思いながら、ひたすら脚を動かした。

2015.10.19
prev|94|next
back
ALICE+