「じゃあ私そろそろ帰ります」
「えぇ。あ、この辺り通り魔出てるみたいだから気をつけてね」
「はーい」
ジョディさんのお見舞いをして、帰路につく。廊下ですれ違った毛利さんと鈴木さんのうち鈴木さんが声をかけたそうにしていたけれど気付かぬフリをして通り過ぎた。そろそろさすがにこの2人とも関わりを持たないといけなくなってきただろうか。
(まぁ、工藤君とかと違って事件性はないんだけど…)
最近は私という存在が彼女らを事件に巻き込む可能性も考慮した方がいい気がしてきた。一応今のところ私の周りにいる人はよっぽどのことがなければ自分の身は自分で護れるような人たちだからそれなりに安心していることもある。けれど、極力巻き込みたくないのが本音だ。
腹をくくった方がいいのか、それともこのままのらりくらりと避けられるものは避けて通るのを貫き通すか。
ぱしゃり、と童心に返りながら水たまりをわざと踏むようにして歩いていたとき。目の前を歩いている人に気付いた。警察の人でもないのに子どもじゃなくて雨合羽なんて珍しい。そう思いながら見たとき。その人の手には、一つの刃物。
「っ、あ……」
普通なら絶対に持ち歩くことがないであろうソレに、私の身体の動きが止まる。その人は私に気付いたらしく視線が合うと口元に弧を描いて私に迫ってきた。
「えっ、ちょっ…」
刃物を持った人の動きに私の身体がビクリと揺れる。避けなければ、と私が思う瞬間には、すでに腕に痛みが走っていた。
(あ、やば……)
ズキズキと痛む腕。地面へと落ちるぐらいには、血が流れている。
逃げたその人が曲がった先にせめて誰かいれば、と思いながら追いかける。T字路を曲がったところでは、こけた歩美ちゃんと、私を刺した人。歩美ちゃんがその人が持つ刃物を見て、悲鳴を上げる。それは辺りに響いて、一瞬歩美ちゃんに襲いかかるようにして見せたもののすぐに退いて走って逃げた。
(そういえばこんな事件あったっけ)
まさか被害者が自分になるだなんて考えてはいなかったけれど。歩美ちゃんの悲鳴を聞いてか、コナン君たちが駆け付けて来たけれども安全ではあるけれども主要メンバーな彼らに私は苦笑いをした。
+ + +
「だから気を付けてって言ったのに…」
「いや、これは不可抗力ですよ…」
わりとざっくり切られた腕の治療に、私は搬送された。よりによって、さっき出たはずの病院に。
「呉羽くん、念のため赤井くんにも連絡しておいたぞ」
「あ、有難うございま……え、今なんて」
「秀に連絡したって」
「ですよねー…」
一応FBIの人たちの中でも、私の保護者は秀一さんという扱いになっている。異世界から来た、というのはさすがに隠しているらしく、その辺りは多分秀一さんがうまいこと説明をしたのだろう。
そしてジェイムズさんからしたら秀一さんに…保護者に、連絡をするというのは当たり前の行為なわけで。
(東都タワーの爆発事件のときも怒られたんだよなぁ…)
さすがに頬を叩かれたのは意外だったけれど。心配かけたし仕方ないのは分かるけれどもこれは関わろうと思って関わったものじゃなくて、たまたま歩いていたから見逃してもらいたい。いっそこのまま時が止まってしまえ、とか思っていたとき、部屋にノック音がした。その音に私が肩を揺らすのと同時に扉が開いて、あまり機嫌がよろしくなさそうな秀一さんが入ってきた。
「……呉羽、」
「………ハイ」
秀一さんが私の名前を呼ぶ声の低さに、室内の温度が2、3度下がったのではなかろうか。そんなことを思いつつ返事をして、部屋を後にした。
2015.11.24
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