秀一さんに腕を引っ張られるようにして連れて来られたのは、彼の車で。エスコートするように助手席の扉を開けられたのでそこに乗り込めば、少しだけ乱暴に扉が閉まる。イラついているのは、どう考えても私のせいなのだろう。
助手席に座らされたのでとりあえずシートベルトをしていると、反対側の扉から秀一さんが車に乗り込む。何か言葉を発した方がいいのだろうか、と思って秀一さんを見たけれども彼は前だけを見ていて。私は窓の外の方に視線を移す。
(怒らせちゃった、かなぁ……)
どこに行くのかは知らされていないけれど、秀一さんが車を走らせる方向や時間的に恐らくは家なのだろう。あまり無茶をするなと、約束こそはしていないけれどずっと言われてきていた。爆弾事件のときに叩かれたというのに、我ながら本当に学習しないな、と思う。今回のは、不可抗力なのもあるのだけれど。
窓に反射して写る秀一さんの姿を見て、私は袖を握りしめてた。
+ + +
「俺は戻るが、何かあったら連絡してくれ」
「わかりました」
「明日は、学校行くのか?」
「そう、ですね。一応行くつもりです」
「…そうか」
家に着いて、玄関で秀一さんに確認をされる。病院でちゃんと処置はしてもらったし、多少痛むけれどあまりに酷いときは、ということで一応痛み止めも貰った。学校に行くことに関しては支障はないだろう。
あまり、一人でウロウロするなよ、と釘を刺すように秀一さんが言って、仕事に戻るらしく私に背を向ける。私は、無意識にその背中に手を伸ばして秀一さんの服を掴んだ。
「……呉羽?」
「っ、あ……その…」
服を引っ張られる感覚に、秀一さんが振り向く。意図的に引き止めたわけじゃないから何かを言うつもりもないのだけれど、何か言わなければいけない気がして。下を向いて、小さく口を開いた。
「……ごめんなさい」
無茶をするなと言われていたのにこんなことになって、呆れただろうか。上を見上げることが出来なくて下を向いたままでいると、秀一さんが小さく息を吐く。ぎゅっと掴んだ服を握りしめて、秀一さんの言葉を遮るように言葉を続けた。
「無茶するなって言ったのに、迷惑とか心配とか、かけちゃったから……」
「………別に、怒ってはないが」
「…え」
少し困ったように、秀一さんが言う。ピリピリした空気は、私がまた無茶をしたからだと思っていたのだけれど、違ったのだろうか。だとしたら私そうとう恥ずかしい人じゃないだろうか。
秀一さんが私の手を取って、反対の手で私の刺された左腕に触れた。
「…痛むか?」
「少しだけ、ですけど」
刺されたのだから、治療したからと言って全く痛みが無いわけじゃない。腕を庇うようにしながら、秀一さんが私を引き寄せる。
「秀一さん……?」
「…悪いな」
「え?」
「イライラしてはいたが、呉羽に対してじゃない」
猫が人間に擦り寄るときのように、秀一さんが私に擦り寄るようにして寄り添う。私からも秀一さんに寄り添えば、聞こえてくる秀一さんの心音。
「お仕事、大変なんですか?」
「……通り魔のことは、知っていたんだ」
「……?」
秀一さんの言葉に私が首を傾げる。そもそもジョディさんが私に教えてくれたから、別に秀一さんが知っていても不思議ではないだろう。秀一さんを見上げれば困ったように少しだけ笑みを浮かべる。
「迎えに行くか悩んで行かなかったんだが、こんなことになるなら行けば良かったと思っていただけだ」
寄り添っていた秀一さんが離れて、くしゃくしゃと私の頭を撫でる。ちゅ、と軽く額にキスをして、フッと笑った。
「明日は学校まで送ってやるから、今日はもう大人しく家にいろ」
「無茶、しないでくださいね?」
「お互い様だな、それは」
お互い無茶する恋人を持つと大変らしい。安静にしてろよ、という言葉に苦笑いをして、秀一さんを見送った。
2015.12.03
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