一夜限りのシンデレラ

二年後への約束してくれたシュウ君可愛い

「っ、ふ……ぁ、んんッ!」
「ん……はっ、逃げるな、」
「だ、って……」

 私の家に帰り着いた瞬間、彼が狼へと豹変した。扉を閉めた瞬間にされたのは、噛み付くようなキス。驚愕と戸惑いで開いた唇から舌をねじ込まれて、いつぞやにされた辿々しいキスと違って随分慣れたようなその動きに私の女の部分が引き出されていく。私の身体は後ろには壁、目の前にはシュウがいて逃げ場はない。けれど、わずかに残った理性がシュウにストップをかける。

「男が女にドレスを買う意味は知ってるか」
「そりゃ、知ってるけど……その、色々と、さすがに」

 一応私も女なわけで、そのぐらいのことは知っている。買われたときはまさかそんな意味で買っているとは思っていなかったけれど、シュウ君のことだから意図的に買った可能性はあるものの真相は闇の中だ。そんなことより、女の子には色々と準備をしたい部分があるわけで。

「……キスまで、なら」

 ちらり、とシュウ君を見ればどこか不満そうに私を見る。けれども、少しの間の後に納得をしてたのか、私の額にキスを落としてそのまま私を抱き上げて部屋へと移動していく。額や瞼、頬等にキスを落としていくのは、少しでも触れたいと思ってくれているのだろうか。私からも甘えるようにシュウ君に腕を伸ばせば、そっと抱き寄せられる。

「六年も片想いをしていたんだ。キスだけで済めばいいがな」
「えぇ……」
「冗談だ。明日帰るからな、変なことはしない」
「え、明日?」
「? 明日だが?」

 ぱちぱち、と瞬きをしてシュウ君を見る。なにそれ聞いてないんですけど。そんな視線をシュウ君に向ければ、彼は私を抱き上げたまま困ったように笑みを浮かべる。いや困っているのはこちらである。
 私の身体が、ゆっくりとベッドの上に降ろされた。ベッドに腰掛けるような形で座らされて、その前にシュウが跪く。まるで、靴を履かされたときのようだ。その体勢のままシュウ君が私の左手を取って、薬指にキスを落とす。

「予約、させてくれないか。二年後、ここの指輪を嵌めさせてくれ」
「……待ってていい?」
「あぁ。待っててくれ、二年後、貴方にプロポーズをしたい」
「やっぱり止めた、とかナシだよ?」
「まさか。六年も好きだったんだ、今更嫌いになることもない」

 シュウ君が、小さく笑みを浮かべながら私に告げる。シュウ君が十八になるときに私は二十八で、その年齢差はこの先も縮まることはない。特に結婚願望があるわけではないけれど、シュウ君が十八になったときにやっぱり止めたと言われるとちょっと複雑な気持ちになるのは確かなわけで、念を押すようにシュウに問えば彼は否定を述べる。

「イギリスとアメリカなら、時差は五時間だ。連絡を出来るときはしてもいいか?」
「……勉強が、おろそかにならない程度なら」
「あぁ、約束しよう」

 シュウ君が立ち上がって、私の額にキスを落とす。そのままシュウ君が隣に座って、重さの分だけベッドが沈んだ。どちらからともなく、キスを交わす。ゆっくりと私の身体が倒されて、私の身体はベッドに沈んで。その上に、シュウ君が覆い被さって。

「……変なことは、しないんじゃなかったの?」
「キスぐらい、いいだろう」
「スーツ、シワになっちゃうよ」
「……貴方は、俺を脱がせたいのか」
「そ、そういう意味じゃ、ない、けど」

 シュウ君にそう問われ、顔が紅潮する。いっそのことこのまま寝てしまいたい衝動に駆られるのは確かなのだけれど、このまま寝て悲惨なことになってしまうのは分かりきっている。何よりシュウ君は明日には帰るのだから、朝バタバタするようなことは避けたい。そんな気持ちだったのだけれど、確かに今の体勢的にいろいろと別のものを連想させるのは確かだ。

「楽しみは、二年後に取っておくさ」

 ちゅ、とまるでおやすみのキスをするかのように、額に口付けられる。そのまま起き上がったところを見ると、着替えるか何かするつもりなのだろう。私も身体を起こして、ついさっきシュウ君がキスしたところに触れる。頬に熱が集まるのは、もう仕方がないと思うことにした。シュウ君といると、それだけでドキドキする。
 バサリと音を立てながら上着を脱ぐシュウ君を見て、ふ、と思う。そういえば彼はホテルを取ってるんだったな、と。完全に忘れていたそれを思い出して、だったらもう後は帰るしかないかな、なんて少しだけ寂しく思いながら立ち上がって後ろから大きな背中に抱き着く。小さかった背中は、こんなにも大きくなった。嬉しいような、寂しいような。

「どうした?」
「ホテル、取ってるんだよね?」
「……こんな可愛い恋人を置いて一人でホテルに行けとは随分辛辣だな」
「うぇ、だって取ってあるんじゃ……」
「まさか。こうなると見越していたからな」

 後ろを振り向いたシュウ君が、ちゅ、とリップ音をさせながら私の額にキスを落とす。私に触れたことを味わうようにぺろりと唇を舐めて、にんまりと口角を上げる。シュウ君は、今なんと言っただろうか。言われたことを復唱して、首を傾げる。こうなることを、見越していた、と。と、いうことは。私が好きって思っていることも気付いていたということだろうか。私が、シュウ君に好きだと言うことも見越していたと。

(…………嵌められた気分)

 そんな意図があるかどうかは、別として。どこか腑に落ちないので少しだけ頬を膨らませてシュウ君から離れれば、シュウ君が喉を鳴らすように笑う。ちゅ、ちゅ、と私の機嫌を取るようにキスを落として結局私はそんなシュウ君を許してしまうのである。シュウに甘いのは、昔からだ。

「ちなみに明日は何時の飛行機?」
「……十時」
「一応聞くけど夜?」
「昼前の」
「む……あんまり時間がない」

 ぎゅう、ともう一度私からシュウ君に抱き着く。シュウ君の匂いを取り込むようにぐりぐりと頭を押し付ければシュウ君が優しくその頭を撫でてくれて。あんまり引っ付いてると襲われるぞ、なんて冗談っぽく笑うシュウ君に苦笑いをしながら抱き着く腕の力を緩めた。一緒にいられる時間はあんまり長くない。どうせならさっさとお風呂に入って一緒にいるのがいいだろうか。お風呂沸かしてくる、とシュウ君に告げれば、シュウ君はもう一度私にキスをして、あぁ、と小さく返事をした。

  ◇ ◇ ◇

 見送りは家でいいよ、というシュウ君に甘えて、玄関でシュウ君を見送ることにした。空港まで行こうかとも思ったのだけれど、空港まで行くと離れがたくなってしまいそうな気がしたからだ。それに、空港ではこんなにもぴったりとくっ付いていることが出来ない。

「シュウ君、甘えた」
「……二泊じゃ足りなかったな」
「私がアメリカに行く手はあると思うけど」
「待っててくれ、けじめだ」
「ん、待ってる」

 私を足の間に座らせて後ろから抱き締めるシュウ君が、ぎゅっと腕に力を込める。どうやら甘えてる時にシュウ君と呼んでも咎められないことに気付いたのでここぞとばかりにシュウ君と呼んでおく。やっぱりシュウ君と呼ぶ方が、私的にはしっくりと来る。

「そろそろ時間じゃない?」
「……そうだな」

 ふ、とシュウ君が眉根を寄せて笑みを浮かべる。離れることを名残惜しむかのようにキスをされて、私からもキスを返す。寂しいのは、お互い様だ。

「あ、そうだシュウ君」
「うん?」
「ん。ここの合鍵。二年後、来てくれるんでしょ?」
「……あぁ」

 引っ越すつもりはないから、とシュウ君にここの家の合鍵を渡せば、シュウ君はその鍵を握り締めて嬉しそうに笑みを浮かべた。そんな顔をされると、私としても嬉しいものだ。二年の間に来てもいいよ、と言ってはみたものの、シュウ君としてはけじめのつもりらしく一応は来る予定はないらしい。電話とか手段はいくらでもあるけど、会えないというのはやっぱりちょっとだけ寂しい。ただ、シュウ君が覚悟を決めているのならば私もそれを邪魔するわけにはいかないので小さく笑みを浮かべて了承するだけだ。

「二年後、待ってるね」
「浮気はしないでくれよ、Darling」
「それはお互い様でしょ」

 話しながら玄関に向かい、既にまとめられている荷物をシュウ君が手に取る。そのままもう一度ハグをして、どちらからともなく触れ合うだけのキスをする。離れることを惜しむように、一回、二回、三回。さすがにこれ以上すると、と思うのはお互い様で、ふふ、と二人で顔を見合わせて笑う。たかが二年、されど二年。長いような短いような期間。次に会える日を楽しみにしつつ、私はシュウ君を見送った。

2020.06.24
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