一夜限りのシンデレラ

あざといシュウ君可愛い

 
 可愛い、とは。形容詞。1、小さいもの、弱いものなどに心惹かれる気持ちを抱くさま。2、他と比べて小さいさま。3、無邪気で憎めない。すれてなく、子どもっぽい。4、可哀想だ、不憫である。そんな意味があるわけだけれど、今私が抱えている感情は一番どれが近いのか。1、なのだろうか。

「お姉さん大丈夫?」
「シュウ君のあまりの可愛さにもしかしたら捕まるんじゃないかという気持ちはあります」
「可愛いのはお姉さんの方だと思うけどなぁ」

 ソファーに座って私のテディベアを抱っこするシュウ君の頭には猫耳、お尻には尻尾が付けられている。黒猫の耳と尻尾は、シュウ君の姿にとても良く似合っていてちょっとした出来心でつけてもらったのだけれど予想以上に破壊力がある。可愛い×可愛いは正義。お姉さんは学んだ。
 時折カメラで写真を撮らせてもらいつつ悶絶する私を余所に、何がいいんだろう、と言わんばかりに尻尾を見るシュウ君にはあまり良さが分からないようだ。逆にその感じがまた可愛らしい。

「お姉さん猫好きだね」
「可愛いよねぇ。とりあえず八年は待つのでシュウ君で我慢です」
「じゃあ、カメラより僕を構ってよ」

 ん、と言いながら両腕を広げるシュウ君を見て私は気付いたらカメラを置いてシュウ君を抱き締めていた。ちゅ、と可愛らしくリップ音をさせながらシュウ君が私の頬にキスをして、私も同じようにし返す。目に入れても痛くない、というのはこういうことなのだろうか。多分この言葉は子どもや孫に対して使う言葉な気がするけれど実際私の子どもみたいなところはあるので触れないでおくことにする。

「シュウ君は何してても可愛いね」
「僕としては可愛いよりカッコいいって言われたいけどね」
「お、そんなお年頃?」
「……好きな人にはカッコいいって思われたいよ」

 私に抱き着きつつも視線を逸らしながらシュウ君が私に言って、その姿は少し拗ねたようにも思える。確かに私を母親のように見ているのならばある意味では身近な異性であって、さらに言えば母親よりもこういうことは話しやすいのかもしれない。私の言葉は、シュウ君からすれば異性のイメージとして参考にもなるのかもしれない。

「ふふ、シュウ君は可愛いけどカッコいいよ」
「本当?」
「うん、可愛くてカッコいい」
「へへへ、じゃあよかった」

 額と額をくっ付けてシュウ君に言えば、彼は可愛らしい笑みを浮かべる。今はまだ可愛いの方が大きいけれどいつかは大きくなってカッコ良くなるのだろうか。お母さんは美人だから期待してもいいと思うのはここだけの話である。

「ねぇ、今僕は猫なんだよね?」
「猫だよー。耳と尻尾、可愛い」
「猫は、鼻と鼻で挨拶をするんだよ」

 シュウ君の鼻と、私の鼻が触れる。今までにないぐらい近い距離に少しだけドキリとしつつ本当に猫のように挨拶をするシュウ君に驚愕を浮かべる。けれどもシュウ君に距離の近さを気にした様子は無くて、私も同じように笑みを浮かべればシュウ君は鼻を離して頬にキスをした。

「シュウ君はキスが好きだねぇ」
「好きな人に触るのは悪いこと?」
「んー、時と場合によるのかな。好きなクラスメイトに突然したりはしないでしょう?」
「僕はお姉さんが一番好きだよ」
「んんっ……」

 そういうことではなくて。年齢故なのか、ストレートな物言いにこっちの方が恥ずかしくなって照れるのを隠す為に顔を隠す。けれど、シュウ君は私の顔が見えなくなったのが不満なのか私に抱き着いていた腕を離して私の手を取った。ナチュラルに、恋人繋ぎで。

「お姉さんといるとドキドキするし、誰よりももっと一緒にいたいって思ってるよ」
「っ〜〜!」

 えへへ、と少し恥ずかしそうに笑いながら私に告げるシュウ君にこちらまで恥ずかしくなって頬が染まる。シュウ君の真っ直ぐとした好意は、ここ数年そういうことに縁が無かった私に耐性が無くてどうしても照れてしまう。何より、今のシュウ君には私が遊び半分で付けた猫の耳と尻尾がある。可愛いことこの上ない。

「お姉さんは猫にならないの?」
「うーん、猫耳と尻尾はシュウ君にさせるつもりだけだったから私の分はないんだよねぇ」
「そっかぁ……」

 可愛らしく首を傾げるシュウ君が私に放ったセリフに、視線を逸らしながら苦笑いを浮かべる。まさか私も猫耳と尻尾を付けることを望まれるとはだれが予想していただろうか。今シュウ君が付けている猫耳と尻尾だって、猫の日も近いしもし当日もしシュウ君が来たときは付けてくれるかなぁなんて軽い気持ちで購入したのである。見事に来てくれて今に至っているのだけれど。
 少し残念そうにするシュウ君はもし本当に猫ならば不満そうに尻尾を揺らしていたことだろう。不満そうにしつつも猫耳と尻尾が無いことを諦めたのか、シュウ君は本当の猫のように擦り寄って、私はというと抱き着くシュウ君の頭を撫でる。

「本当に猫になったら、真っ先にお姉さんのところに行くね」
「お家じゃなくていいの?」
「お姉さんがいいなぁ。ずっと一緒にいられるもん」
「シュウ君は嬉しくなるようなことを言ってくれるねぇ」
「本当のことだもん、」

 ゆっくりとした時間。しっかりと暖房されている部屋は暖かくて、さらにシュウ君の体温でとても心地いい。そんな時間の中でゆったりとしているとシュウ君はふと私を見上げる。私の胸元からじっとこちらを見る姿を微笑ましく眺めながら彼の頭を撫でてやれば、口角を上げて笑みを浮かべた。柔らかい少しクセのある髪が、サラサラと私の指の間を落ちていく。

「お姉さんは、好きな人とかいないの?」
「んー? そうだなぁ、今は特にいないかなぁ」
「……ふぅん」

 シュウ君は少しの間の後に返事をして、私の胸元に顔を埋めてスリスリと擦り寄る。こうして甘えてくるのは嬉しいし弟が出来たみたいに思えるのだけれどこうも私のところに遊びに来るのはいいのだろうか。彼を見守る立場としては、同い年ぐらいの友達と交友を広げてほしいところもある。
 果たしてシュウ君に直接同い年やそれに近い友達と遊ばなくていいのか聞いていいのか。それともまずはお母さんに聞いてみるべきなのか。ぼんやりとそんなことを考えていたとき。

「……にゃあ」
「え」

 鼓膜を揺らした、猫の声。けれど、私の家の中に猫はいない。いや、いるけれども。私に抱き着く大きな猫。その猫が、鳴いた。私の顔に胸元を埋めて、けれども隠れていない耳は真っ赤になっていた。

「シュウ君が鳴いた」
「っ〜〜! お姉さんが! 上の空だからだよ!」
「え、待って可愛い! もう一回!」
「やだ! というか猫なんだから猫可愛がりしてよ!」
「無理やだ可愛い! もう一回!」

 ぐいぐいと恥ずかしそうに私の身体を押して逃げようとするシュウ君を問答無用でぎゅうぎゅうと抱き締める。暫く押し問答をしていればシュウ君は諦めたのかむしろ私にぎゅっと抱き着いてまた胸元に顔を埋めた。恐らくは恥ずかしくて顔を見られたくないだけなのだろうけれど。

「もうお姉さんが猫になればいいじゃん。僕可愛がるよ」
「んんっ……シュウ君みたいな年齢ならいいけどさすがにこの年になるとね……?」
「僕からすれば年なんて関係ないよ」
「いやぁ……さすがにちょっと……」
「いいじゃん。僕だってお姉さんの希望で耳と尻尾付けられたんだもん」
「うっ……」

 それを言われてしまったら手も足も出ない。猫の日だから付けてみて、なんて言ってシュウ君に猫耳と尻尾を付けさせたのは確かに私だ。犯人はだって可愛いと思ったんだもんなどと供述しております。
 子どもやアイドルのように可愛いコが猫耳や尻尾を付けるのはいいと思うけれどさすがに一般の成人した大人が付けるのは如何なものか。視界の暴力。

「それ以外なら、いいから……だめ?」
「……仕方ないなぁ」

 ぷぅ、と頬を膨らませつつ、シュウ君は諦めてくれるのと同時に自身の頭に付けられている耳を外す。ついでに尻尾も外されてしまって、サービスタイムは終わりを告げた。
 ホームズの本でも強請られるのか、それとも別の何かか。うーん、と私に抱き着く腕は離したものの距離はそのまま目の前のシュウ君が悩みつつ私の顔を見る。綺麗な緑色の瞳だ。ちょっと現実逃避のようなことを思っていれば、シュウ君は思いついたのか手を叩いて笑みを浮かべた。

「ねぇ、お姉さん」
「ん? っ、んん!?」

 首を傾げて何をするのか決まったのか聞こうとした瞬間、目の前にあったのはシュウ君の顔。重なった唇。ちゅ、と音をさせながら離れたシュウ君は、頬を染めつつも満足げに笑みを浮かべていた。

「僕のキス、初めてなんだ。お姉さんが責任取ってね?」
「……ふぁっ」

 【急募】未成年にキスした際の責任の取り方

2019.02.25
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