嫌な予感がするけどシュウ君可愛い
「シュウく……待っ、」
「やだ。背を抜くまでって言ったけど、煽るお姉さんが悪いよ」
「煽ってなんか……っ、ん!」
私に馬乗りになったシュウ君の瞳が、熱情を抱いていた。十歳あるまじき顔に、頭がクラクラする。唇を重ねられて、普段の可愛いシュウ君が嘘みたいに大人なキス。逃げようにもソファーに転がっている私に逃げ場は無くて、それどころかシュウ君の手はするりと服の中に侵入して肌を撫でる。過剰なぐらいにビクリと私の身体は揺れて、けれどもシュウ君はやめる気なんて毛頭無いのか指先でお腹をなぞってそのままその上の膨らみへと触れる。
「っ、んん……ぁ、だめ、」
「どうして? ここ、触ると気持ちいいでしょう?」
「ひゃっ、ぁ、あっ、やだ、」
「服の上からさりげなく触ってたときから思ってたけど、お姉さんのおっぱい大きくて柔らかいね」
嫌々と首を振るも、シュウ君はお構いなしだ。服をたくし上げて、下着さえもたくし上げる。膨らみの突起に指で触れられて、随分とそんな風には触れられていなかった筈なのに私の身体は熱を帯びていく。大人として止めなければならないということは分かっているのに、それ以上に頭が熱に侵されていく。気持ちよさに、落ちていく。
「可愛い、お姉さん」
「きゃぅっ、シュウ君、だめっ、」
「素直じゃないね。こんなに乳首を固くしてるのに」
「ひっ、ぁ、あ、!」
シュウ君の赤い舌が、私の乳首に触れる。ちゅう、と音を立てながら吸ってみたり、舌先で転がしてみたり。どこでそんなことを知ったの。どこで覚えてきたの。聞きたいのに聞けなくて、私の口からはただただ甘い声が漏れる。シュウ君はまだ子どもで、こんなことをさせてはいけなくて。そういう背徳感も、今は熱を燃え上がらせるための燃料でしかなかった。
「十歳ってね、お姉さんが思ってるより子どもじゃないよ」
「ひっ、ぁ……あ、やだ、乳首、だめ、」
「んっ……したことはなくても、セックスは知ってる」
「っ、やだ……!」
「僕のが熱いの、分かる? もう、精通だってしてるんだよ」
シュウ君の熱を帯びたそこが、擦るように私の中心に触れる。布越しでも分かるぐらいに熱くて、固い。十歳って、もうそんな年になるのか。自分がいくつのときに性教育を受けたのか思い出せないけれど、もしかしてそのぐらいの年齢にはもう赤ちゃんの作り方ぐらい知っていたかもしれない。熱に侵されながら考えても、考えはまとまらなくてむしろシュウ君の動きに流されていく。
「ねぇお姉さん。僕に、教えてよ。どうしたら気持ちよくなれるのか」
ぺろり、とシュウ君の舌が自身の唇を撫でる。熱に溺れる私に正常な判断能力なんてまるでなくて、快楽を求めるようにシュウ君に自らキスをした。
+ + +
のそり、と身体を起こす。気分は最悪だ。
「……死にたい」
ボソリと呟いた言葉は、誰に聞かれるでもなく消える。いっそ全て綺麗さっぱり忘れていてくれたならどれだけ楽だっただろうか。そう思うのに、無情にも私の記憶の中にはさっきの夢がハッキリと残っている。シュウ君に迫られて、流されて、そのまま快楽に溺れていく夢。ギリギリで目が覚めたから身体を繋げてはいないものの、ほぼ繋げる寸前だった。
(欲求不満なのかな……)
布団に突っ伏して、確かに最近そういうことはしていないけれど、と自問自答をする。シュウ君には確かに何度も好きだと言われているし、キスをしたこともある。舌を入れられたこともあるけれどここでは触れないでおこう。
あんなキスをされてから、タイミングが合わないこともあってシュウ君とは会っていない。けれど、私はシュウ君のことを男として意識しているということなのだろうか。キスをされたとき、男の顔だとは思ったのは事実だ。ドキリ、と胸が高鳴ったのも。けれど決して恋なんかじゃない筈。アレは、いつものシュウ君とのギャップにビックリしただけだ。きっと、そう。
何度も自分に言い聞かせて、バチン、と頬を叩いてベッドを抜け出る。今日は、散歩がてら少し街をブラブラしてみようか。美味しいスコーンのお店に久し振りに行ってみよう。前に買ったちょっと高い茶葉を開けよう。気持ちを切り替えるように頭の中で予定を組み立てながらクローゼットを開ける。最近は朝晩はまだ少し冷えるものの日中は暖かくなってきたから春物が着れるような時期だ。パステルカラー系が着たい。
(せめてロンスカにしよう……)
一番最初に目に入ったスカートは、少しばかり短い。あんな夢を見たから、というわけじゃないけれど、ちょっと控えめな格好をしようと思った。シュウ君がまさかあそこまで知っているとは思えないけれど、性教育がどこまでされているかによっては子どもの作り方ぐらいなら知っていてもおかしくない。シュウ君に会うと決まったわけじゃないけれど、何か察したときはその予感を大事にしていた方がいい。買い物に出たらついでに本屋さんでも行ってみようか。そんなことを考えながら服を考えることに専念した。
+ + +
「あれ、お姉さん?」
「ひゃあっ!!」
背後から突然かけられた声に、持っていた本をバサバサと落とした。多分、今ので数センチぐらい心臓が跳ね上がった気がする。バクバクと脈拍を打つ心臓を押さえながら振り返れば、そこにいたのはシュウ君。彼は私が落とした本を拾いながらやたら驚いた私を見る。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫……びっくりした、だけ、」
考え事してたから、いつもより驚いちゃった。誤魔化すようにそう言ってはみたものの、シュウ君は怪訝そうに私を見ながら本を差し出した。お礼を言いながらそれを受け取って、けれども私の挙動不審さには自らは触れないでおくことにした。
「シュウ君も買い物?」
「図書館に行った帰りだよ。最近お姉さんに会えてなかったから本屋にまで脚を伸ばしてよかった」
「ふふ、嬉しいこと言ってくれるねぇ」
無邪気な笑顔を浮かべるシュウ君は可愛くて、ほっと安堵する。そうだ、こんな可愛い顔で懐いてくれてるシュウ君だ。あんな夢を見たのはたまたまで、キスもきっと本でちょっと読んだから試しただけなのだ。こんなにも可愛らしく笑うシュウ君があんなにも熱を帯びた顔になるだろうか。一人でシュウ君を見ながらあれはただの私の夢だな、と納得をして、彼の頭を撫でる。
「……子ども扱い」
「可愛くって、つい」
「カッコイイがいいよ」
ぷぅ、と頬を膨らませるシュウ君は可愛い。カッコイイがいい、なんて言うのも年頃だろうか。少し年の離れた弟がやたらと懐いてくれているような感覚は私としても嬉しい。
「お姉さん、この後って何か予定あるの?」
「すぐそこにあるスコーンのお店に寄ってスコーン買ってから帰ろうかなって。シュウ君もアフタヌーンティーする?」
「いいの?」
「もちろん! 私の家でいいかな? 飲みたいなって思ってた紅茶があるの」
「いいよ! 荷物持ちする!」
するり、と自然にシュウ君は私の手から荷物を取って、少し悩んだけれども荷物持ちはお願いすることにした。今手に持っている本は未会計だから、ちょっと買ってくるね、とシュウ君に告げれば彼はにっこりとほほ笑んで外で待ってるね、と言ってくれた。
「あ、そうだ」
「うん? シュウ君も買うのあった?」
「ううん、違うよ。今日のお姉さんのスカート、春っぽくて可愛い」
「あ、有難う、」
それだけ、と言ってシュウ君は本屋さんの外へと向かう。真っ直ぐに褒めてくるその言葉には、どうにも慣れそうにない。恥ずかしさを取り払うようにブンブンと首を振って、とりあえずは会計を済ませてしまおう、と私はレジに向かった。
+ + +
やっぱり僕、お姉さんが淹れてくれる紅茶が一番好きだなぁ。私が淹れた紅茶を飲みながら、シュウ君がそう呟いた。えへへ、と少し照れながら笑う姿に、こっちまで頬が緩む。
「今日のはちょっといい茶葉使ったんだよ」
「そうなの? なにかいいことあった?」
「んーん、気分転換」
まさかえっちな夢を見ました、なんて言えるわけもなく。たまには贅沢したくて、と笑って言えばシュウ君は誤魔化されてくれたのか、ふぅん、と小さく返事をしてスコーンを咀嚼する。気分転換、というのもあながち間違ってはいないだろう。
シュウ君はゴクリと食べていたスコーンを飲み込むと、甘えるように私の腕にぎゅっとしがみつく。反対の手で頭を撫でれば、笑みを浮かべた。
「甘えんぼ?」
「最近お姉さんに会えなかったからお姉さん補給してるの」
「んんっ……」
何それ可愛い。ホラー番組を怖がる子どものようにぎゅうぎゅうとしがみつくシュウ君が可愛くて、反対の手で頭を撫でる。控えめな甘え方は、若干の遠慮なのだろうか。シュウ君の腕を取れば、彼は少ししょんぼりとしつつ、同時に不思議そうに首を傾げる。離れてほしい、という意思表示に見えたのかもしれないけれどちょっと違う。
「腕よりこっちの方が良くないかな?」
「お姉さん、そういうところずるい」
シュウ君に向けて両手を広げれば、真正面から抱き着かれる。グイグイ来るけれど少し甘え下手なところは、家ではお兄ちゃんをしているからだろうか。私の胸元に顔を埋めて頬を緩ませているシュウ君を見ながらそんなことを思う。こんな姿を見ていると妙に甘やかしたくなって、私はシュウ君の額にキスを落とす。瞬間、シュウ君は驚いて顔をあげて、仕返しというように私の唇にキスをする。
「今日のシュウ君甘えただね」
「嫌?」
「まさか。私シュウ君好きだもん、嬉しいよ」
「……お姉さんさぁ」
「うん?」
呆れたように、シュウ君が視線を逸らしながら言う。ぐい、と腕を引かれたと思ったら世界が反転して、私の身体がソファーに転がった。視界に入るのは、私に馬乗りになったシュウ君。この光景には、見覚えがある。
「分かってる? 僕、お姉さんに好意を寄せてる男なんだよ」
さっきまでの可愛い笑顔は、どこにいったのか。熱情を帯びた瞳が、真っ直ぐと私を見ている。聞き覚えのある言葉は、夢と全く同じ。
「シュウく……待っ、」
「やだ。背を抜くまでって言ったけど、煽るお姉さんが悪いよ」
「煽ってなんか……っ、ん!」
静止の声を掛けるも、シュウ君は関係ないと言うように私の唇を塞ぐ。アレは、もしかして正夢だったのだろうか。
2019.03.22
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