最期の場所と午前0時
車から降りて、辺りを見回す。ジェームズさんから、赤井さんは爆弾で死んだと聞いた。道は整備されて無くて、とても痛々しくその爪痕を残している。
「……ここ、で」
「少し前に、車の爆発事故があったとはニュースになっていました」
「そう……」
拉げたガードレールに、焼け焦げた地面。爆発に巻き込まれた彼は、何を思いながら逝ったのだろう。ガードレールに触れれば、煤が私の指に付いた。
「ねぇ、貴方、明日…いや、もう今日か。今日の予定は何かあるの?」
「…いいえ、特には」
「もし貴方が良ければで構わない。私の奢りで、一時間後に飲みに行かないかしら?」
「……わかりました」
彼は一瞬考える素振りをして、答えながら私の頭を撫でた。そのまま私の横を通りすぎて、そのまま車へと向かう。そして、運転席の扉を開けながら再度口を開いた。
「一時間、少し時間を潰してきます」
要件だけ述べて、彼は車を発信させてどこかへ走り去った。暗いこの場所に、私はただ一人残される。
くっきりと、車があったのであろう場所が焼け焦げていて、他の場所は自然がそのまま残っている。私はガードレールの拉げた部分から少しだけ離れた、損傷をしていない部分に寄りかかりながら鞄の中から煙草を取り出す。それは、かつて秀一がよく吸っていた銘柄のもの。
私自身は、あまり煙草は好きな方ではない。けれど、同じく鞄の中に予め入れていたライターで火をつけてそれを口に運ぶ。
「苦……」
彼は、こんな苦いものを好んで吸っていたのか。つくづく、私と彼は合わないのかもしれない。一本だけそのまま吸って、残ったものは拉げたガードレールの側に手向ける。
(分かってた、はずなのになぁ…)
自分たちがいつ死ぬか分からない境遇にいることなんて、自分自身が一番良くわかっているはずなのに。当たり前のように生きて帰って来ていた彼に、いつしか絶対的な自信を持っていたのかもしれない。彼は、必ず生きて帰ってくると。
爆破の爪痕を残す場所の目の前にしゃがみ込んで、その場所を眺める。真っ黒に汚れたその場所は、暗がりでは分かりにくいけれど明るい時間帯に見たらもっと生々しかっただろう。心底昼間に来なくてよかったと思える。
「馬鹿な人」
頬を流れ落ちる雫は、果たして誰を想ってのものなのだろうか。服が汚れるかもしれないことさえも気にせず、その場に腰を下ろして座り込んだ。
+ + +
「…思っていたより、普通ですね」
「泣きじゃくって、どうにもならないと思ってたの?」
道路に車を止めて私を見下ろす彼。フッ、と笑って、私に車に乗るように告げる。彼の車に乗るときに最期にもう一度だけ焼け焦げたそこを見る。
「っ……」
確かに、何かを言おうとしたのに言葉にならなくて。多分もう二度とこの場所に来ることはないだろう。私は小さく息を吐いて、車に乗り込んだ。
「外に一時間いるのは、冷えたでしょう」
「まぁ……」
「飲みたくなければ、捨てて頂いて構いません」
運転をしながら彼が私に差し出したのは、ココアの入った缶。まだ温かいそれは、恐らく一度私と別れた後に買ったものだろう。
果たして私は彼にココアが好きだということを話しただろうか。まさか彼の好みなのか、と思って彼を見るも、彼が飲んでいるのはブラックコーヒーだ。彼が特別甘党なわけではないらしい。
「それで、どこか行きたいところはありますか?」
「貴方のオススメの場所があれば、そこで。初めて日本に来たからいい場所知らないのよね」
「わかりました。酔いつぶれるつもりですか?」
「出来ることなら、ね」
元々お酒が弱いほうじゃない。どちらかと言えば強いほうだ。目の前の彼が私より先に潰れてしまわないことを祈るしかないだろう。
「…大丈夫ですよ、こう見えてもお酒には多少の自身があります」
「なら、安心ね。思いっきり酔いつぶれてもいいかしら?」
「えぇ、構いませんよ。何をされても構わない、と約束して頂けるのなら」
「別に、されたって構わないわよ。どうせそういうことする相手がいるわけでもないし」
むしろ、そっちのほうが有難いかもしれない。例え一瞬だけでも彼のことを忘れさせてくれるのなら、それでも。
(そんなこと、自分からは絶対に望まないのだけれど…)
差し伸べられば、私はそれを迷わず手に取るのだろう。例えそれが、悪魔の囁きでも。
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