一夜限りのシンデレラ

戸惑いを隠せない午前4時


目を覚ませばベッドの中で、後ろから包むような温もりがとても心地のいいものだった。私を抱きまくらにしている彼は眠っていて、ゆるくなっている腕から逃れて彼を見れば、情事の最中も外すことが無かった眼鏡を外していて、一切着崩さなかったというのに襟元が開けられていた。
最中に彼が何度が私をあやすように頭を撫でていたのを思い出して、彼の髪に触れる。私の指をすり抜けた髪はくせっ毛なのか、くるり、とハネる。

(シャワー…浴びよう)

激しくしてほしい、と言ったのは確かに自分だったけれど、アレほどとは誰が予想しただろうか。普段あまり使うことのない筋肉を使ったからなのか、ところどころ痛む身体を庇うようにしながらシーツを一枚身にまとって脱衣所に向かう。部屋から離れる際に再度彼を見たけれど、起きる気配はなかった。

さすがそういう場所、とでも言うべきなのだろうか。脱衣所はやけに鏡張りで、私の身体に残された生々しい痕が情事を物語る。適当にシーツを放り投げて、目の前の鏡で自分の体を確認する。

「う、わぁ……」

首から胸元、背中、内腿など無数に残された所謂キスマークと所々にある噛み痕。なんとも言えない気分になりながら蛇口を捻ってシャワーを浴びる。噛み痕にお湯で痛む、ということはないけれどもやはり気になるもので。
軽く触れてみても痛みはないし、気をつけるのは外に出るときだろうか。季節が冬なのが有難く想いながら蛇口を捻りお湯を止める。

(彼は、起きているのかしら……)

ホテル側から用意されていた真新しいタオルを手に取りながら、ベッドで起きる気配のなかった彼を思う。出会ってからまだ半日も経ってないというのに、やけに気にかかるのは秀一にどこか似ているからだろうか。それこそ、出会い方さえ違えば私は彼に恋焦がれていたのかもしれない。

「馬鹿ね……」

そんなことを思っても、どうにもならないというのに。確かに秀一のことが好きなはずなのに、今はベッドで横たわる彼の本当の名前を知りたいと思うのはただ愛着が湧いただけだ。そう自分に言い聞かせながら、ベッドに戻る。
外はまだ暗く、時間を見ればまだ午前4時。普段起きるている時間には随分と早いけれど、今日はやけに目が冴えている。ベッドに入ったところで眠れることはないだろう。ベッドの周りに散らばっている服をかき集めて、それを身にまとう。全てを身にまとい、軽く化粧などの身支度をした後にベッドに腰掛けた。

(日本人は顔が幼いというのは、本当だったのね)

アメリカ生まれでアメリカ暮らしの私。当たり前ではあるけれど日本人に合う機会は少なかった。それこそ、今の仕事に就くまでは会ったことがないぐらいに。けれど、今日この人物に会って、年齢こそは聞いていないけれど話し方等からして私とほとんど大差ない年齢だろう。だが、見た目は随分と若く見える。

「っ、………」

私が彼の髪に手を伸ばして触れるのと同時に、彼が身動いだ。眠りが浅かったのだろう。そう思いながら声をかけるか悩んだのと同時に、ゆっくりと閉じられていた瞼が開いた。まだ眠そうな顔で私を見上げる目は虚ろで、イマイチ目が覚めていないのだろう。

「まだ寝ていて大丈夫よ。起きるには時間があるから」

彼は私の顔を虚ろな目で見ながら、何かを言いたそうに口を開く。けれど、その言葉は声にならなかった。暖房によって喉が枯れているのだろうか。水でも取りに行くかと立ち上がろうとしたが、何かに引っ張られる感覚に立ち上がることは叶わず、再度ベッドに腰掛ける。見れば、彼が私の服の裾を掴んでいた。

「…行くな、アリシア…」

「………え?」

私の名前を呼び終えるのと同時に、パタリと彼の手が落ちる。でも、問題はそこじゃなかった。丁寧な口調が崩れたその声は、微睡みの中で聞いた、秀一の声に酷似しているものだった。

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