サヨナラを告げた午前6時
道路から、ホテルを見上げる。
(何も、考えなくていい…)
今ここで何かを考えて推測しても、それはあくまで推測だ。本当に彼が秀一だったとして、きっとその答え合わせは出来ない。変装していたとして、それをホイホイ人に言っていては変装の意味が無い。
ホテルを出ても行く宛なんか無くて。とりあえず適当に歩けばいいんじゃないかと想いながら歩く。まだ人はあまりいなくて、朝の空気が心地良い。
街中を外れてさらに歩き続けていると、ここ数年は使われていないであろう廃ビルを見つけた。チェーンが軽くかけられているだけで、どうやら中には入れるらしい。
(日本にも、こういうところはあるのね…)
アメリカの方では少し治安が悪いところに行けばこういう建物は結構あった。まだアメリカを離れて数日しか経っていないのに懐かしく思いながら私は中に足を踏み入れる。
カツン、カツン、と、私が歩く度にヒールの音がする。中に電気はなく、薄暗い。それこそ、真夜中とかなら何かが出てきそうなほどに。
二階に上がって、手前の部屋に入る。手入れがされていないからか多少の汚れはあるけれども、思っていた程汚くはない。
入り口の真正面にある窓際に歩み寄って外を見てみれば、外に人の気配はかった。
(ここなら、あまり人目につくことはない、か…)
私は、鞄の中からほぼ空といえる瓶を取り出す。カラン、と音を立てたそれには、錠剤が1つ。まず普通には入手することが出来ない、裏ルートから仕入れた薬。誰のためでもない、自分のために使う薬だ。
「……楽だと、いいんだけどなぁ」
いっそ、拳銃でも持ってくればよかっただろうか。それなら一発で、あの世へ逝ける。最も、空港を通らなければならない時点で中々難しいものになるのだけれど。
鞄の中から、水の入ったペットボトルを取り出す。部屋の中心に鞄とペットボトル、瓶を置いてその場に座る。
悔いは、ないつもりだ。この錠剤を飲めば、あとは眠るだけ。ただ、それだけだ。
ビンの蓋を開けて、掌に錠剤を出す。白い、丸い薬。それを口に含んで、水とともに胃の中へと流しこむ。
「これで、全部終わりだ」
ゴロリ、と床に寝っ転がる。ホテルとは違う、薄汚れた天井。目を閉じて、真っ暗な世界へと落ちる。徐々に薄れゆく意識に、私は身を任せた。
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