(飲むなと言われたら、きっと飲まなかった)
放課後になって、俺の家に戻ってきた。連れてきた結城を通して、適当に紅茶でも淹れておく。ちょっと取ってくるから、と言って立ち上がれば、それが何と言わずとも理解してくれたらしくいってらっしゃい、とだけ言われる。
(普通の高校生のわりには勘がいいよな…)
俺が工藤新一であるとばれたのが彼女で良かったと、心底思う。勘が良くてかつ察しがいいからかなり救われている。これが、他の普通の高校生だったらどうだっただろうか。
2階にある自分の部屋に行って、灰原に貰った薬のデータが入ったCDと解毒剤が入ったピルケースを手に取る。これを飲めば、全てが元に戻る。江戸川コナンは消えて、工藤新一が帰ってくる。
ピルケースを握りしめて、結城を通した部屋へと戻る。偶然とは言え、俺が工藤新一であると知っている以上、彼女にはきっと知る権利がある。俺が、どちらを選ぶのかということを。
「……お帰りなさい」
「あぁ…」
扉を開けると、紅茶の入ったカップを持っていた結城が呟くように言った。それに返事をして、俺は葵の向かいにある一人掛け用のソファーに座って、テーブルに手に持っていた2つのものを置いた。
「こっちのCDが薬のデータで、ピルケースの方が薬だ」
「……データは、これだけしかないの?」
「バックアップとかは、全部無いって言ってたぜ。薬も、これ一錠だけだ」
「そっか」
これを飲めば、すべてが終わるんだね。そう言って、また結城は紅茶を口に運ぶ。俺がどっちを選ぶつもりでいるのか、彼女は見透かしたようだった。薬を貰っている時点で、答えを言っているようなものなのだけれども。
「オメーは…どっちがいいと思う?」
「答え、決まったんじゃなかったの?」
「不安がないわけじゃねぇよ」
俺の言葉に、葵がクスリ、と笑った。私より10歳も上なのに、と悪びれた様子もなく言う姿に、何とも言えなくて苦笑いを浮かべた。
「江戸川君のしたいようにすればいいよ。1度きりの人生、後悔したくないじゃない?」
「……サンキュ」
お礼を言って、CDを手に取る。薬を飲んでしまう前に、コレを処分しなければならない。俺の、灰原の、この薬に関わった人間の人生を、狂わせることとなった悪魔のような薬のデータ。その旨を結城に告げれば、彼女がCDを手に取る。
「コレ、ただのCDなんだよね?」
「あぁ。CDは、な」
「ふーん……」
ケースからCDそのものを取り出して、眺める。見た目は何の変哲もないCDだろう。そういえばCD用のシュレッダーがあったな、ということを思い出して、取ってくる、と言ったけれど結城にいらないよ、と言って止められる。どうするのか、と思い結城を見た。ら。
バキッ、という音が響いて、結城の手にあったCDは真っ二つに折れていた。
「これで、処分は終わったね」
「……終わらせた、だろ」
苦笑いをしながら、ゴミと化したそれを見る。真っ二つに割れたそれを適当にゴミ箱に突っ込んで、ピルケースへと手を伸ばす。パチン、と音を立ててそれを開けば、中の薬が揺れた。
「……結城、」
結城を呼びながら、俺は彼女の隣に腰かける。そのまま引き寄せて腕の中へと閉じ込めれば、抵抗するわけでもなく俺の服を握る。俺が、最後の最後まで薬を飲むか飲まないか決めかねる原因となった、結城。このまま薬を飲んでいいか、と尋ねれば、腕の中で静かにうなずく。
「痛かったら、ぶん殴れよ」
薬を飲んだときは、どうなるかわかんねぇからな。そう言って、薬と紅茶を口の中に入れた。
2015.08.07
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