彼が、消えてしまいそうだと思った。

 
ゴクリ、と口に含まれた水分が喉を通る音が聞こえた。刹那、江戸川君の手からカップが落ちて。割れなかったことに安堵して息を吐く。同時に彼が身体の異変に耐えるように私に抱きつく。

「っ、あ……」

その感覚がどんなものか私には分からないけれど、それはきっと酷く苦しいものなのだろう。高校生ならもう大人と体格はさほど変わりないからまだマシかもしれないけれど、子どもから大人だったらそれは想像を絶するものなのではないだろうか。
しがみつくようにして抱きついて来る江戸川君の背中を撫でながら、抱きしめ返す。痛いぐらいに抱き付かれるのを感じながら、江戸川君はもっと痛いんだ、と自分に言い聞かせて。

どれぐらい、そうしていたのだろうか。はぁ、と江戸川君が息を吐いて、私の身体を抱き締めていた腕がだらりと落ちる。

「江戸川、君……?」
「…悪いな、付き合わせちまって」
「ううん。むしろ関わっちゃったから、最後まで付き合いたかったし」

身体が少しだけ離れて、江戸川君と視線が交わる。見慣れない、けれど、見たことのある、江戸川君よりも少しだけ大人びた工藤先輩の、姿。
その姿がなんとも言えなくて、ぎゅっと江戸川君の服を掴む。そうすると、江戸川君がフッ、と笑って私の頭を撫でた。

「何つー顔してんだよ」
「何だろう…。江戸川君の事件は、やっと終わったんだね」
「まぁ、な」

学校、止めるんだよね?そう尋ねれば、あぁ、と短く返ってきた。多分、彼のことだからもう全て終わらせているのだろう。江戸川君として、やるべきことは、全て。

「委員会、寂しくなるなぁ…」
「どうせ俺殆どいなかったろ…」
「それもそうか」

最近起きていたことが印象に強すぎて、新学期が始まってまだあまり経っていないということをつい忘れそうになる。近い距離はそのままにその短い出来事をひとつ、ふたつと話す。江戸川君と関わってからの出来事が濃すぎて、他のことが霞むぐらいだ。
委員会のこと、学校のこと、薬のこと、江戸川君のこと、工藤先輩のこと。いろんな話をして。ひと通り話して、話題が尽きる。

「……これから、どうするの?」

ぽつり、と私が小さく言う。ずっと、気になっていたこと。薬を飲んだ工藤先輩が、これからどう生きていくのか。
江戸川君はそんな顔するなよ、と言って私の頭をくしゃくしゃと撫でる。

「まだちょっとすることはあるけど…もう決めてある」
「……そこまで、見届けてもいい?」

一瞬、どうして自分でもそんなことを言ったのかが分からなかった。でも、私の本心は確かに江戸川君がすること、全てを見届けたくて。江戸川君は、一瞬驚いたけれどもすぐに笑って私を見る。

「3日後に、全部話してもいいか?」
「3日、後?」
「あぁ。やること、まだ少しあるからさ」
「…ん」

待ってる。そう言って、私は江戸川君の胸元に顔を埋めた。

2015.08.16
- 15 -
back  next

top
ALICE+