苦痛に歪む顔から、目を背けたかった。


「江戸川君、だよ、ね……?」
「あー……」

私が訊くと、江戸川君は面倒臭そうに頭を掻きながら私を見る。そのとき、突然鳴り響く電子音。それは、彼の携帯かららしく携帯をポケットから取り出して操作しながら確認している。
どうやら音の原因はメールらしく、数回操作したところで彼の動きが止まった。

「江戸川、君……?」

私の手の中には灰原さんから預かったプリントがあって、それを渡さなければ私は帰ることが出来ない。もうこの際目の前に立つ彼が何者でもいいから私の中にあるファイルと受け取ってくれないだろうか、と思い始めた頃。

「えっ……?」

突然江戸川君に腕を引かれて、家の中へと招き入れられる。江戸川君は私の腕を掴んだまま、家の中を進む。奥へ奥へと進むのでどこにいくのか、と思っていると最終的に連れて来られたのは二階にある部屋で、机のあるところをみるとここが江戸川君の部屋なのだろうか。

「オメー…口はそんなに軽くないよな?」
「まぁ、わざわざ言うのも面倒だし…」
「今からここに来る人、俺との関係は好き勝手言っていいから絶対この部屋に入れないって出来るか?」
「……なるほど。姿を見られたらマズイんだ?」

江戸川君の今の姿を見られてマズイというなら、この姿の人間を知っているということなのだろう。

(……この、姿?)

江戸川君の今の姿は、私の知る江戸川君の姿より10歳程上だろう。でも、仮にこの姿が見られてマズイというのなら、今目の前にいるこの姿が本当の姿ということなのだとしたら。

「工藤、新一……?」

私の出した名前に、江戸川君が目を見開く。そして、ばつが悪そうなかおをして視線を逸すように横を向いた。沈黙する、ということは肯定だと思っていいのだろう。

「じゃあ、コレが本当の姿なんだ…」
「……俺でさえも、知らなかったけどな」

江戸川君の言葉に、息を呑む。それもそうだ。江戸川くんはずっと私と同じ高校生だった。それなら、恐らく江戸川君が小学1年生のときからほとんど元の姿には戻っていないのだろう。
重い地目が流れる中、玄関のチャイムが鳴る。それは恐らく江戸川君が会うわけにはいかない人物で。なんとかしてくるから、と江戸川君に告げて部屋から出て玄関に向かう。あっさり帰ってくれればいいけれど粘られたらどうしようかと思いながら玄関を開ければ、そこにいたのは髪の長いきれいな女性。20代半ばから後半ぐらいだろうか。

「もしかして……コナン君の彼女?」
「ちっ……違います!まだ!」
「まだ?じゃあこれからなんだね」

クスクスと笑う女性。まだってなんだよまだって私!そう思って苦笑いをしながら目の前の女性を見れば、手に持っていた袋を差し出される。

「女の子がいるのに私が会っても邪魔だろうから、ゼリーとか買ってきたのコナン君に渡してもらっていいかな?」
「え、あ、はい…!」
「じゃあ、またね」

私に買ってきたソレを渡して、思いの外あっさりと彼女が背中を見せた。結局彼女は誰だったのだろうか、と思いつつ袋をぶら下げながら江戸川君の部屋と戻る。
二階に上がる途中に中身を見てみればゼリーやらプリンやら体調の悪いときに食べやすいものだ。これぞ女子力、と思いつつ部屋の扉を開ける。そこにいたのは、部屋の中で倒れている江戸川君だった。

「江戸川君っ!?」
「っ……」

心臓を抑えて苦しそうに呼吸をしている。とりあえず救急車、と思い携帯を取り出すもその手を江戸川君に掴まれて阻止される。

「すぐ、収まっ…から……」
「でもっ…!」
「っ…悪ィ、」

小さく聞こえた謝罪の声。それと同時に、江戸川君が私に抱きつくようにしてしがみついた。

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