彼女の金色が揺れた。
私が記憶を失って、数日が経った。時折誰かが食事を持ってきたりする程度で、それ以外に人との関わりは殆ど無い。あぁ、少し前に確か医者らしき人は来たかもしれない。医者だと言われたわけではないけれど、白衣を着ていたから、多分。
相変わらず、足枷はつけられたままだ。
(地味に邪魔なのよね……)
足枷が外されるのは、着替えやお風呂のときだけ。それも監視付きだから、自由は無いと思っていいだろう。
ここ数日で、いくつかの情報を得た。ジンによると私はこの組織に属している人間で、コードネームを与えられて仕事をしていたらしい。人を殺したりとかもすることがあるらしいから、正直危ない組織ではあるような気がしたけれど記憶の無くなる前の私がどういう人物かも分からない今は正直別人の話を聞いているような気分だった。
そこで、だ。詳しいことは教えてくれなかったけれど、どうやら私は仕事で何かやらかしたらしい。本来であるならば本人の口からそのときの状況とかを聞いて即射殺の予定だったのだけれど、目覚めた私に記憶は無い。そのときの状況を聞くことが出来ないためとりあえず生かしている、というのが現状だ。
(ミスして即射殺って、私はどんなことをやらかしたんだろう……)
ジンが相手の出方を見て云々言っていたから、この組織だけの問題でもないらしい。信頼問題に関わるようなことなのか、それともお金が消えたとか?今の頭ではそんなことぐらいしか思いつかず、ベッドに転がって考えてみても答えが提示されていないから結局は悩むだけ無駄だと思って考えるのを止めた。
「起きろ」
ギィ、と扉の開く音がして、そこにいたのはジン。相変わらず人相は悪いけれども機嫌が悪いわけではないらしい。身体を起こして彼を見上げれば、彼はひとつの手帳のようなものを投げ渡してきた。
「……FBI?」
そこには、偽名なのか本当の名前なのかは分からないけれど一人の女性の名前。そして、私の顔写真。それは、本物を見たことがあるわけではないけれども恐らくFBIであるという証だ。
「明日から、テメェはそこに行け。記憶喪失なら再度潜入するのにも都合がいい」
「記憶が無くなる前の私がいた場所って、FBIなの?」
「潜入としてだ。向こうはお前がこっちの人間だなんて疑ってないみたいだからな」
「…なるほどね」
この組織はFBIからしてみれば捕まえるべき組織なのだろう。私がやらかしたことは、FBIの人間に組織の人間だということがバレる可能性があることだったのではないだろうか。再度潜入することになるということは、それはなんとか回避出来たのだろうけれど。
「言っておくが、次はないと思え」
確かに次こそ即殺されるんだろうな、となんとなく楽観的に考えながら息を吐いた。
+ + +
翌日。とりあえず設定的に私は記憶喪失で今まで小さい病院に入院していた。しかし入院していても一向に記憶が戻る気配も無い。なので、少しでも記憶が戻れば、ということで町を歩いてみているということになっている。その小さい病院は組織がお金を積んだのか、それとも元々組織が絡んでいる病院なのかは私には知らされていない。多分、この先も知ることは無いだろう。
(適当に歩いてろって言われたけど、することない…)
組織の管轄下にある以上、逃げることだって出来ないだろう。いや、逃げるつもりはないけれども。監視されているというのにあまり下着とかは見たくないものだ。それに私には実際に演技が出来なかったら困る、という理由で今現在FBIの人間の顔は知らされていない。もし彼らが私を見つけてくれなければ意味が無いのだ。一応FBIの人間がこの辺りをうろついていることがある、というのは下調べ済みらしい。ただ、ちょっと無謀すぎるのではないだろうかと考え始めていた頃。
「―――実琴っ!?」
私がFBIだと示す手帳に書かれていた名前を呼ばれて、少し考えて振り向く。金髪の、眼鏡をかけた女性。記憶が無い私からすればそれが私の知り合いであるかも分からなくて、そして呼ばれたその名前が本名なのか偽名なのかさえも分からない。
ただ女性を見たままで何も言わない私を、彼女は上から下まで見る。私であることを確認するように。
「実琴、でしょう…!?今まで、どこにっ……」
「あ、の……どちら様、でしょうか」
その言葉は、紛れも無い心からの言葉だ。実琴と呼ばれたその名前は、FBIの手帳に書かれていた名前だった。けれど、確かに目の前の彼女は前の私の知り合いか何かでも今の私には誰だか分からない。悲しげな声で記憶が無いの?と尋ねられて、小さく頷く。
「記憶、喪失ってこと……?」
「恐らく、は…。何も、分からないんです」
ごめんなさい、貴方が誰なのかも分からないんです。そう彼女に伝えれば、彼女が私を抱きしめるようにして抱きつく。人目があるから、出来ればそういう行為は避けてほしかったのだけれども彼女からすれば私を知っているということは探していた、ということだから仕方無いだろうか。
「いいわ……。貴方だけでも、無事だったのなら…」
泣きそうな声で…いや、恐らくはもう既に泣いているのだろう。生憎彼女に抱きしめられた私からは見えないけれど。
この先、私はずっと彼女を騙していかことになるのか。そんなことを思いながら、拳を握りしめた。
2015.12.14
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