観覧車から随分と離れた場所でも、観覧車の方から激しい音が聞こえてくるのが分かる。早めに離れたからもう少し時間があるかと思ったけれど、実際はそうでもないらしい。観覧車を一度だけ睨んで、私は頭を切り替える。わざわざ観覧車を離れた目的は、別にある。
(回りこむことは、出来たけど……)
彼女よりも先にこの場所に着けたことに安心して、息を吐く。ただ、まだ全て終わったわけじゃない。幸か不幸か、鍵は残されている。私の目の前にあるソレを実際に使ったことはないけれど、これでも車の免許は持っていた。元の世界のところで、だけれど。重機関係も操作の違いは多少なりあれども基本的には似たようなものだろう。
(あぁ、でも先にこっちがあったか、)
ポケットから、携帯を取り出す。安室さんに会ってここに来るまでの間だけ安室さんに預けていた方の携帯。
本当は私が一度そっちに向かいたかったのだけれど時間を考えたら無理そうだったからもう賭けのようなものだ。実際元の世界では助かっていたけれど、念のための行動。画面を起動して、発信履歴を開く。一番上にある見慣れない番号を押して、電話をかけた。
「お願いだから、繋がって……」
ツ、ツ、と電話を繋げる為の音が何度して、その後聞こえてきたコール音に息を吐く。あとは、このまま相手が着信に気付けばそれでいい。一度目はそのまま何度かコール音が繰り返されて、機会的なアナウンスに変わる。その瞬間に私は通話を切断して再度かけ直す。
(携帯ぐらい持ってるよね…?)
逆に、そっちが不安になってきた。電話の先からは機会的なコール音が響くだけで、相手は出ない。
「さっさと出てよインテリ眼鏡っ…!!」
『……眼鏡が何か問題でも?』
「げ……」
どうしてこうもタイミングが悪いのか。口から本音が漏れた瞬間に相手に繋がったらしい。ただ、そんなことを言ってる場合じゃない。
「私が誰かとかそういう問題は置いておいて、風見さん観覧車内部ですよね?」
『そうですが…っ、しまった、あの女が…!』
「それは大丈夫です!組織の連中が来てるんです!命が惜しいと思うなら観覧車から逃げてください!」
『しかしっ…』
「しかしもカカシもあるか!!」
アンタが死んだら降谷さんが悲しむでしょう!!半ば怒りに任せてそう言えば、相手が息を飲むのが分かった。会ったこともない女にこういうことを言われるのはどうなのかとも思うけれどそれよりも彼の命だ。
「それに、降谷さんなら今組織を止めようとしてます!そんな中で自分の部下が死んだとか聞いたらどうなるか分かるでしょう!?」
怒号にも似た声が、辺りに響く。不安と焦りから、半ば風見さんに八つ当たりするようになってしまったことは申し訳ないと思う。けれど、彼に少しでも早くその場を離れて貰わないといけないのは事実だ。
少しの間を開けて、分かりました、と風見さんの声が聞こえた。
『貴方も、お気をつけて』
「えぇ。会うのが死体にならないことを祈ります」
どちらかというと、死体になる可能性があるのは私の方だけれど。その言葉を飲み込んで通話を切る。これで、大丈夫な筈だ。
私は置いてあった鍵を手にとって、エンジンをかけた。
2016.06.12
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