「あ」
「どうした?」
「安室さん、私の予備の携帯預けときます。もし何かあったら、ライトとして使って下さい」
「それは構わないが…ここにいるように言われてただろう」
「私が大人しくしてるとでも?」
本当は、私もひとつしなければいけないことがあったのを思い出したからなのだけれど。それが、どう影響するかは分からない。上手くいくとは限らないし、最悪自分だって死ぬかもしれない。
(本当は、秀一さんにもうあんな顔をさせたくはなかったのだけれど)
前に、杯戸病院であったことを思い出す。あのときの秀一さんは、私の顔を見た瞬間泣きそうに見えた。声が、震えていた。もう二度と、あんな顔をさせたくはない。もう、見たくない。けれど。
「ごめんなさい、安室さん。私、しなきゃいけないことあるんです」
前の携帯だからもし壊したりしても弁償してくれなんて言いませんから。そう言って、半ば無理矢理携帯を押し付けるようにして渡す。これで、電気が消えても大丈夫な筈。そう言って駆け出そうとしたとき、安室さんに腕を掴まれる。
「死ぬなよ。絶対に」
「……降谷さんこそ、」
私がわざと彼の本名を言えば、少しだけ困ったように笑った。お互いに死なないように約束のようなものをして、私はその場を離れる。爆弾は、後は任せて大丈夫な筈。
(吉と出るか、凶と出るか……)
観覧車内部を走って、外へと向かう。一応ここの制服を着ているから、誰かに見つかったとしても何とかなるだろう。カンカンカン、と音を立てながら階段を折りて、立入禁止という文字が下げられたプレートを掲げられたチェーンを跨ぐ。
刹那、フッ、と辺りの電気が消えた。
突然辺りが真っ暗になって、パニックになった人たちで溢れかえる。私をスタッフだと勘違いした人に捕まらないようにそのまま走り抜けて、観覧車乗り場へと走る。そこに、あの人たちがいるはず。
「っ……目暮警部!」
「君は…ここで働いていたのかね」
「ここにいるお客さんたち、イルカショーのスタジアムに避難させて下さい!!」
会うなり挨拶もせず放った言葉に、目暮警部と佐藤刑事、高木刑事が驚くのが分かった。でも、そんなこと言ってる場合じゃない。少しでも早くスタジアムに避難させれば、それだけけが人も減る筈だ。
「呉羽ちゃん、何か知ってるの…?」
「正直、私にも詳しいことは分かりません。ただ、ここにいたら危ないことだけは分かります」
「内部で、何か起こっているのかね?」
「すみません、私にも詳しいことは…」
爆弾があるということは、言わない方がいい。大騒ぎしたら、それだけジンたちに気づかれる可能性がある。あくまで停電したからという名目で避難させて欲しいと少しばかり無理のある要望に、目暮警部が言葉を飲む。正直、事情を知らない人たちからすれば無理があることは分かりきっている。
「……分かった」
「え?」
「どこまで可能かは分からんが…公安の者にも、協力を申し出よう。」
「有難うございます!念のため、水族館の中の人たちもお願いします!」
目暮警部に一礼して駆け出す。せめてここにいる人たちがスタジアムの方に避難できれば、怪我人は減るだろう。
状況を把握できていない公安の人たちの横を通り、観覧車乗り場を後にする。刹那、観覧車が大きく揺れる。キュラソーの乗っていたゴンドラが、ジンたちの乗る飛行機によって掴まれたのだろう。
(大丈夫、あの三人なら…!)
一度だけ観覧車を見上げて、私は観覧車から離れた。
2016.06.07
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