「彼女、結局どうなるんですか?」
帰りの車の中。沈黙を破るように私が秀一さんに尋ねた。記憶が無いとはいえ、一応はあの組織にいた人間。人を殺めていたこともあるだろうし、何より警察庁に忍び込んだという前科がある。ただ、その場合は触法精神障害者という扱いになるのかもしれないけれど。
「一応、証人保護プログラムの手続きは進めてある」
「じゃあ、もう会えなくなっちゃうんですね」
「……状況が状況だ。暫くは半年に一度ぐらいに検査だな、アレは」
「え?」
私が首を傾げて秀一さんを見れば、彼は小さく息を吐いて絶対に誰にも言うなよ、と釘を刺すように私に言う。私が小さく返事をしながら首を縦にに触れば、秀一さんが口を開く。
「記憶がいつ戻るか分からんからな…。記憶が戻ればあのゴンドラを止めたとはいえ、いつ組織に戻るか分からない以上は証人保護プログラムを受けていても暫くは監視体制のままだ」
「何だか、それも嫌な話ですね…。仕方がないこと、なんでしょうけど」
「連絡を、取りたいのか」
「え?」
車が、赤信号で止まる。秀一さんがじっと見定めるように私を見る。もしかして、彼女と話していたことを聞かれただろうか。そんな立ち聞きなんてするような人ではないと思っていたけれど、一応彼だってFBI。立場上、そうしなければならないことだってあるはずだ。
「病室を出るのが、名残惜しそうだったからな。あの女の年は知らないが…大方、呉羽と大差無いだろう」
「……そう、ですね。私が高校生じゃなかったら、きっと」
なんだ、そういう意味か。別に立ち聞きとかそういう類ではなかったらしいことに安心しながら、彼女を思い出しながら膝の上で指を組ませる。高校で話す人たちとは違う感じだった。それは、私の実際の年齢に彼女が近いからなのかもしれない。
「あの女が証人保護プログラムを受けた後の交友関係までは手出しは出来ん」
「そうなんですか?」
「危ない雰囲気を少しでも見せれば別だが…思い出さない限りは、な」
遠回しな優しさに秀一さんを見れば、それと同時に信号が青になったことによって秀一さんは前を向いた。たまたま私が彼女と会って、たまたま接点を持って、たまたま仲良くなって、たまたま日本に来ないか誘ってみるだなんて、どんな確率だろうか。さり気なく私を喜ばせる秀一さんを見て、笑みをこぼした。
+ + +
「観覧車に乗るのに付き合ってほしい?」
「それは構いませんが…、呉羽さんひとりでも大丈夫なのでは?」
「もしかして、高いところが怖いのか?」
私の言ったことに、歩美ちゃん、光彦君、元太君が順番に返す。別に高いところが苦手ってわけじゃないよ、と笑みを浮かべながら三人に返して、長い間復旧工事をしていた大観覧車を思い出す。
「私の友達…あ、外国にいるんだけど。ここの大観覧車に乗りたいって言ってるの。それで、三人はあの大観覧車乗ったことあるでしょ?案内してもらおうかなって」
私は行ったことがないから、お願いできるかな。そう私が尋ねれば、三人はそれぞれ返事をする。任せて、と自信満々に答える姿を見て、彼女がこっちに来たときにどんな反応をするのかと想像して頬を緩める。喜んで、くれるといいのだけれど。
「お前海外に友達いたのか?」
「まぁねー。ふふっ、コナン君も来る?」
「何か企んでやがるな…」
「それはお楽しみ。哀ちゃんはどうする?一応沖矢さんが車出してくれる、とは言ってくれてるけど」
「車一台じゃ足りないんじゃない?博士にも相談しましょう」
あぁ、それもそうか。そう思うのと同時に哀ちゃんはどうやらあまり沖矢さんの車には乗りたくないらしい。こればっかりは仕方ないかな、と思いつつ一応参加を前向きに捉えているらしく、有難う、と言えば別に行くと決まったわけじゃないわ、というツンデレっぷりを発揮してくれた。
「そのお友達さん、どこから来るの?」
「アメリカからだよ。ずっと日本に来たいって言ってて、やっと来れるの」
「じゃあ、英語が話せないとダメか?」
「大丈夫、日本語ペラッペラだから!」
「どうせ行くなら観覧車以外にも行きたいですね!」
「哀ちゃん、パンフレットある?」
賑やかになってきた様子を見て、ついつい頬を緩める。誰が来るか、なんていうのは出来れば実際に会うまでは内緒にしておきたい。子どもたちに秘密の共有は難しいし、コナン君に知られたらそれこそまずいから記憶喪失のフリは続けてもうらうことにはなるけれど。それでも、彼女は三人に会いたいと言っていたからそれでいいのかもしれない。
「早いとこ、組織が無くなっちゃえばいいのになぁ」
そうすれば、彼女だってもっとこっちに来れる。記憶喪失のフリだって、せめて子どもたちだけにもしなくてすむようになる。早くそんな未来が来ればいいのに、と思いながらパンフレットを広げて計画を立てる子どもたちに混ざるべく声をかけた。
2016.08.28
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