秀一さんが部屋の外で電話をしていることをいいことにベッドのど真ん中でうつ伏せで携帯を扱っていると、寝室に戻ってきた秀一さんが私で遊ぶように背中に乗った。乗った、と言っても別に馬乗りのようになったとかではなくて、背中側から抱きつくようにだけれど。体重はあまりかけられていなくて、布越しに秀一さんの体温が伝わる。
「秀一さん?どうしました?」
「お前は、未来を知っているんだったな、」
「そうですね。今回の騒動も知ってますよ」
私が上を向くと秀一さんが私の上からどいて、肘をベッドについたまま体重がかからないように空間を作る。その中で私が身体を反転させれば秀一さんが私の首筋に顔を埋める。子どもをあやすように撫でれば、秀一さんが甘えるように私に抱きつきながらぎゅっと私の肩を掴んだ。
「ずるい選択肢かもな、コレは」
「どうなんですかね。多分私が思ってることと秀一さんが知りたいこと、合ってると思うんですけど…その情報を秀一さんがどこから手に入れたかは私も知りませんから」
「そこは、知らないのか」
「まぁ…。出てこなかったので」
実際映画を見てたときも秀一さんだしな、という感じで特に気にしてはいなかった。映画は原作とは違って端折られるシーンもあるだろうし、何とかしたのだと思うしかなかった。でも、私がいることによって出来ることがあるなら私はその手を差し出すつもりだ。
「でも、全ては教えられません」
「あぁ。俺も、そのつもりだ。それに、情報に見合うだけの対価は払う」
「別に、そんな取引みたいなこといりませんよ」
「だが……」
「じゃあ、一緒に寝てください。それだけで十分です」
秀一さんが、それじゃあいつもと変わらないと言いたげだったけれども仕方がない。東都水族館には行こうって言ってくれたし。
私の首筋に埋めていた顔が離れて、額にキスをされる。秀一さんが私の横に転がって、私も向かい合うようにして横になった。そのままぎゅっと秀一さんに抱きついて、私は彼の望む情報を吐き出した。
+ + +
「頼むから、お前は戻ってくれ」
「嫌です。これが情報の対価ですし」
「…………」
車を港から分かりにくい位置に駐めて、ライフルをセットする秀一さんが不満気に息を吐く。昨晩は一緒に寝るだけ、と言ったけれどどうせなら私はこっちについて来た方がいいな、と思い直して翌日の秀一さんの行動についてくることが対価となった。まぁ、結局一緒には寝たのだけれど。そもそも今更別に寝るのも嫌だ。
倉庫にジンのポルシェと安室さんのRX-7を見つけて、場所が合っていたことに安堵する。何度もネットで地図とビュー機能を駆使して探しただけあって、合っていたらしい。最近の地図って凄い。
「終わったら、ちゃんと家に戻るんだぞ」
「はーい」
自分の所持している銃を念のため持って、秀一さんに返事をする。私にあのライトを命中させるだけの腕はない。だったら、扉を蹴破ってそのまま逃げてバイクで家に帰ればいい。そう、秀一さんを言いくるめた。
(まぁ、帰らないけど……)
私が素直にはいそうですか、なんて言って家に戻ると思ったら大間違いだ。むしろ何故素直に家に帰ると思った、とでも言いたい。多分、秀一さんにはかなり怒られるだろうけれど。でも、でもだ。秀一さんと安室さんの対峙するシーンは見たいと思う私は何か間違っているだろうか。安室さんを遊園地に連れて行く、という役割も一応は考えているのだけれど。いくらなんでもRX-7に乗って行くのは危険過ぎるだろうし。
「話し声、聞こえるか?」
「ん……捕まって、すぐみたいですね」
秀一さんと倉庫に向けて耳を澄ませば、中からジンの声が聞こえてきた。キュラソーが伝えてきたノックリストにお前たちの名前があったそうだ、と。この倉庫の中では、安室さんと水無さんが後ろ手で手錠をかけられているのだろう。中にいるのは、ジンとウォッカ、ベルモットだった筈。
―じゃあキュラソーを奪還して、ノックリストを手に入れるべきじゃないの!?
水無さんの叫ぶような声が、倉庫から聞こえてきた。秀一さんに視線を向ければ、サイレンサーを付けたライフルを構える。タイミングを見て、射撃するつもりなのだろう。
刹那、倉庫から一発の銃声が聞こえた。
(ジンが、水無さんを撃った…!)
緊迫した空気が、外まで伝わってくるような気がした。ごくり、と息を飲んで中から聞こえてくる声に耳を澄ます。ウォッカの告げる数字が、徐々にゼロへと近付いていく。そして、ウォッカがゼロを告げた瞬間。秀一さんが持っていたライフルから銃弾が飛び出す。
「呉羽、分かってるな?」
「大丈夫。もし捕まっても、助けてくれるんでしょう?」
秀一さんが何か言いたげに私を見たけれど、私はそれを振り切るようにしてその場を離れる。銃を持ったまま扉に近付いて、中から聞こえる声に耳を澄ませる。
―バーボンがいない!逃げたわ!
―クソォ!どうやって!?
ベルモットとウォッカの声が聞こえた瞬間、私は扉を蹴破る。バンッ、と大きな音と同時に私は踵を返して、一気に走りだした。
2016.04.22
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