Sorting ceremony

ホグワーツは外見だけではなく校内も素晴らしかった。正面には大理石の階段がずっと上へと続いており、上を見上げても天井は見えない。石造りの壁が松明の炎で照らされて、それがいかにも雰囲気を晒し出していた。
玄関ホールはとても広々としていたのに、マナたち一年生が連れてこられたのはお世辞にも広いとは言えない小さな空き部屋だった。そこに缶詰めのように押し詰められると(どうしてホグワーツは広いのにわざわざ狭い部屋を選ぶのだろうとマナは思った)、騒めく中にマグゴナガル先生の声が響いた。

「ホグワーツ入学おめでとう」

それから暫く、彼女は組み分けの儀式や寮について、学校での生活などをチクチクと説明した。マナが緊張して口を一文字に結んでいると、説明を終えたマグゴナガル先生が部屋を出て行った。

「いったいどうやって寮を決めるのかしら?」
「さあ…試験とか?」
「そんな!私この前まで魔法とか信じてなかったのよ」

あちらこちらから組み分けの儀式について様々な憶測が飛び交う。魔法の試験なら、何とかなるだろうがーーもし、いわゆるステータスで決まるものなら、マナは絶望的だ。何せ自分にはそれこそ何もないのだから。

生徒みんなが緊迫した空技だった中、急に辺りが騒めき始めた。マナもつられてその方向を見ると、そこには二十人ものゴーストがいるようだった。

「わあ!」

皆が驚き恐怖の色を浮かべる中、マナは感嘆の声をあげた。ゴーストを見るのは初めてだ。ゴーストは「記憶」とは違って真珠のように白く透き通っている。マナの声を聞いた一年生の視線がマナに集まったが、マナはそれに気付いていないようだった。

何やら会話をしていたゴーストの一人が、マナたち一年生に気付いた。

「おや、君たち、ここで何してるんだい」

誰も答えない中、マナが答えた。

「マグゴナガル先生を待ってるの。ねえ、あなたってゴーストなの?」

一年生全員がギョッとしてマナを見やった。信じられないという顔だ。そしてマナのそのゴーストにも負けない肌の白さと真っ白な髪に、彼女をゴーストと間違える者もいるぐらいだった。

「ゴーストだとも。新入生じゃな。これから組分けされるところか?」

マナはどうやらゴーストも自我を持ち、意思疎通を図ることが出来ることを発見した。次にマナが気になったのは、その透き通る身体に触れるのかどうかだった。マナがそれについて聞こうとすると、部屋の扉が開いてマグゴナガル先生が入ってくるのが見えた。

「ハッフルパフで会えるとよいな。わしはそこの卒業生じゃからの」

フルフルパイーーなんだって?マナが聞こうとする前に、マグゴナガル先生の厳しい声が聞こえた。

「さあ行きますよ。組分け儀式がまもなく始まります。」

その声に、ゴーストが一人づつ壁を抜けてフワフワ出て行った。その様子を見て、ゴーストはきっと触れないんだろうなあとマナは思った。


部屋を出て玄関ホールに戻り、さらに二重扉を通って大広間に出ると、そこにはさらに幻想的な世界が広がっていた。蝋燭がそこらかしこに空中に浮き、四つの長テーブルにはそれぞれ異なった色のローブとネクタイを身につけた上級生が物珍らしがるようにマナたちを見ていた。天井はーーあるのかどうか確かではないが、綺麗な星空が広がっている。

「本当の空に見えるように魔法がかけられているのよ。『ホグワーツの歴史』に書いてあったわ」

少し離れたところから誰かの説明が聞こえてきた。確かに、そんなことが書かれた本を読んだことがない気がしなくもないーー似たような本がたくさんありすぎて忘れてしまった。
それにしてもどうやってこんな魔法をかけるんだろう。呪文はなんだろうか。カエルムシデレウム、星空よとか?後で部屋でこっそり試してみようーーそんなことを考えていると、急に歌声が聞こえてマナは悲鳴を上げそうになった。


ーー♪
私はきれいじゃないけれど
人は見かけによらぬもの
私をしのぐ賢い帽子
あるなら私は身を引こう
山高帽子は真っ黒だ
シルクハットはすらりと高い
私はホグワーツ組分け帽子
私は彼らの上をいく
君の頭に隠れたものを
組分け帽子はお見通し
かぶれば君に教えよう
君が行くべき寮の名を

グリフィンドールに行くならば
勇気ある者が住う寮
勇猛果敢な騎士道で
他とは違うグリフィンドール

ハッフルパフに行くならば
君は正しく忠実で
忍耐強く真実で
苦労を苦労と思わない

古く賢きレイブンクロー
君に意欲があるならば
機知と学びの友人を
ここで必ず得るだろう

スリザリンはもしかして
君はまことの友を得る
どんな手段を使っても
目的遂げる狡猾さ

かぶってごらん!恐れずに!
興奮せずに、お任せを!
君を私の手にゆだね(私は手なんかないけれど)
だって私は考える帽子!



すごいすごいすごい!マナは興奮した。マナは惜しまない拍手を送ったが、どうやらこの場にいる全員がそのようだった。

「僕たちはただ帽子をかぶればいいんだ!フレッドのやつ、やっつけてやる。トロールと取っ組み合いされるなんて言って」

振り返るとロンとハリーがいた。二人はマナに気付くと、やあ、と声をかけてきた。ロンは心底安心しきった顔をしているが、その隣のハリーは何だか気分が悪そうだった。

「ハリー、大丈夫?」
「僕、心配だよ」

ハリーが弱々しく言った。「大丈夫だよ」マナが言った。

「きっとどの寮に行っても楽しいに違いないよ!だって上級生の人たち、皆楽しそうだもの」

ハリーはいくらか弱々しく微笑むのに対し、マナは安心させるようににっこりと笑った。マナも不安がないわけではなかったが、それ以上にわくわくしていた。
組分け儀式が始まり、先程ボートで一緒になったハンナとスーザンはハッフルパフへと決まった。それから続々と振り分けられていきーー感覚的にハッフルパフが多い気がしたーーついにマナの名前が呼ばれた。

「クレイシア・マナ!」

マナが前に進み出ると、マナはより一層好奇の目に晒された。「真っ白だ」「さっきのゴーストの子よ」ひそひそと囁いている声が聞こえた。マナは急に帰りたくなった。

帽子を被ると頭の中に声が聞こえた。「おや、君は前にもここに来たかな?」マナはびっくりして声も出なかった。一体どうなっているの?

「君も中々に選びごたえがあるな。好奇心旺盛なのは非常に難しい……レイブンクローにもグリフィンドールにも当てはまる。しかし心はハッフルパフに適しているね。狡猾さはないが目的を達成するあらゆる手段は君の内にある。フーム難しい……」

マナは正直どこでも良かった。楽しければ寮は関係ない!だから帽子さん、早く選んで!マナは心の中でハリーやロン、ドラコやハンナ達を思い浮かべた。帽子はさらにウームと唸った。

「では人生に対して勇敢なその姿勢を見込んでーーきっと君ならどの寮とも仲良く出来るだろうーーグリフィンドォォォル!!」

帽子が叫んだ。マナは密かにジェームズやリリー、そして母親と同じ寮に選ばれたことを嬉しく思っていた。どこでも良いとは思っていたけれど、もしかしたら心の奥底ではグリフィンドールを願っていたのかもしれない。
マナが席へ向かうと、ハリー、そしてすぐにロンもやって来た。ハリー程ではなかったけれど歓声に包まれてやって来たマナは、ロン達のコンパートメントを紹介してくれた双子のウィーズリー兄弟に祝福の言葉を受けた。「やあ白雪姫」「せいぜい毒林檎を食べないようにな」「そうだ相棒、スリザリンの髪の毛を全員白髪にするってのはどうだ?」「そりゃあいい!早速計画を立てるぞ!」(まるでジェームズが二人いるようだった。)
監督生のパーシーはマナに握手を求め、「ようこそグリフィンドールへ。分からないことがあったら何でも僕に聞いてくれ」と言ってくれた。

楽しくなりそうだ、とマナは期待に胸を膨らませた。
組分け前の帰りたい気持ちは、いつの間にかどこかへと飛んでしまっていた。


組分け儀式が終わった後は、皆で食事をしたりお話をしたりしてとても楽しい時間を過ごした。ダンブルドア校長のお話や、自分の好きなメロディで歌う校歌なんかはとても面白かった。こんな大勢の人と話したのは初めてだ。
マナは急にドッと疲れた気がした。

「眠いの?」ハリーが尋ねてきた。「こんなに賑やかなのは生まれて初めて」 マナが言った。「僕もだ」ハリーは穏やかにマナに笑いかけた。心なしかハリーも眠そうだった。

途中、ピーブズというゴーストーー詳しくはポルターガイストーーと一悶着あったが、無事に寮へとつき部屋へと向かうと、そこには既にノエルが横たわっていた。たった数時間しか離れてないが、何日ぶりに会った気がした。マナは寝てるノエルに申し訳ないと思いながらも、真っ先にノエルに抱き着いた。ノエルから感じるユーリの家の陽だまりの匂いや山の匂いがとても懐かしく思えた。

そのまま眠りに落ちそうになると、「シャワーも浴びずに汚い」と喋らないはずのノエルが言った気がした。マナはほぼ寝ている頭で、ノエルが喋れたら素敵だなあと笑った。マナはもぞもぞと動くと、杖を取り出して突っ伏したままスコージファイ(清めよ)と呟き(勿論普通は入学したての一年生が使えるものではないのだが)脱いだローブを無言呪文で壁にかけると、そのまま眠ってしまった。そんなマナを見て、ノエルは呆れ溜息をつくように目を閉じたのだった。