They r not blood-related

マナはイギリスの山奥に住んでる女の子だ。顔立ちは東洋とも西洋ともとれる容姿をしているが、瞳は淡紅色で、肌は陶器のように白く、真っ直ぐで絹のような白い髪を持っているーー所謂、アルビノだった。
そんなマナと一緒に暮らしているのは、マナの両親ーーかと思いきや、はたから見ればどう見ても血の繋がりがあるようには見えない顔立ちの男女だった。

「マナ、こっちを見てごらん」
「? なぁに?」

彼らについて分かることと言えば、2人は魔法使いであるということ。

「あっはは、引っかかった!!僕と目を合わせたね、これでしばらくは語尾にーーいたっ」

大人気なく爆笑する男ーー名前はジェームズーーの背後から、バシッと頭を叩く音がした。

「ジェームズ、あなた本当に毎日懲りないわね。今日はマナの記念すべき日なのよ!邪魔しないで!」
「そんな怒ったリリーも可愛…いたっ痛い痛いちょっ」

ジェームズは悪戯好きで、しょっちゅうマナに魔法をかける。そんなジェームズに、もう1人の魔女でありジェームズの妻であるリリーがお仕置きで魔法をかける。そんなやり取りを物心着く前から見てきたマナは、魔法を当たり前のように思っていたし、マナもジェームズからしょっちゅう魔法を教わっていたので、イギリスのホグワーツ魔法魔術学校から入学の招待状のようなものが届いた時は、それは少しは驚いたが、信じられないということにはならなかった。

「でも、マナがホグワーツに行くなんて…考えれば当たり前だけれど、それでも信じられないわ」
「ジェームズとリリーはホグワーツの卒業生なんでしょ?もしかして、ママもそうだったの?」

マナは両親を知らない。物心ついた頃には、両親は既にいなかった。しかし、マナは一度も淋しいと感じたことはない。母親がマナに残してくれたこの家には、特殊な魔法がかけられていて、ユーリーー母親の名前らしいーーの"記憶"が文字通り"生きている"のだ。そのため、ユーリの"記憶"であるジェームズとリリーは母親のことを良く知っていた。

「ええ、そうよ。彼女は本当に偉大な魔女だったわ!ジェームズは首席だったんだけど…何回か、彼女に首席を奪われた時があって」

ふむふむ、私のお母さんはどうやら凄かったらしい。
マナは少しだけ安心して、ホッと胸を撫で下ろした。そんなマナの様子を感じ取ってか、リリーはにっこりと笑いながらマナの頭を優しく撫でた。

「だからきっと、あなたも素敵な魔女になるわね」

マナは思わず俯いた。ぼさぼさの髪の毛の間から見え隠れする耳は、仄かにピンクに染まっている。

「さあ、髪の毛を梳かしてらっしゃい。今日は人生で初めて家の外に出る日でしょう」

そう、マナは家から出たことがなかった(もちろん外には出たことがあるが、マナにとって山は庭同然だった)。山奥に住んでいるため人と会うことなどもないし、学校にも行ってなかったのだ。しかし、母が残してくれたこの家にはたくさんの本ーーそれこそ一生かかっても読みきれるか分からないようにマナは感じたーーがあったので、マナの頭には今まで読んできた大量の知識と、実際に目で見て確かめたいという人一倍の好奇心で埋め尽くされている。

マナは一通り準備を終えると、はたと思い止まった。

「ねえ、外にはどうやって行くの?私、箒も持ってないし、姿現しも出来ないし……何か欲しいときにはオカネも必要なんでしょ?私、オカネなんてこの家にあるの見たことないよ」

リリーとジェームズは一瞬きょとんとした顔になり、すぐにクスクスと笑いだした。

「あら、マナは煙突飛行を知らないのかしら?」
「えんとつひこう?」

マナは暫く首を傾け、何かを考えるようにすると、思い出したように声をあげた。

「あっ、緑の粉をかけて移動するやつでしょ?でも、その粉は家にあるの?えーと、フー…」
「フルーパウダーね。あるわよ!」
「本当!?わあ、私煙突飛行なんて初めて!外に行くのも初めて!」

マナは相当楽しみなようで、ぴょんぴょんと跳びはねた。

「あっ!オカネは??」
「それも大丈夫。多分、ユーリがあなたのためにたくさんのお金を残しているはずだわ。グリンゴッツ銀行に行けばお金が降ろせるはずよ」
「なんてったってあのユーリだからね。全く、どこからあんな大金を出してくるのか、僕には永遠の謎さ」

マナはさらに高く跳びはね始めた。童顔ということもあるのだろうが、その大袈裟にも見える行動はマナを普通の10歳よりも随分年下に見せていた。
マナは早速煙突飛行をしようと、リリーからフルーパウダーを受け取ると、一目散に暖炉へと向かった。もちろん、買い物リストも忘れない。今日はマナの教科書や学用品を買いに漏れ鍋へと行く予定なのだ。

「良い?『漏れ鍋』よ。間違うとどこか違う場所に着くから、気を付けて」
「間違えると身体がバラバラになってしまうからね!」

マナは思わずぎょっとした。身体がバラバラになるなんて!

「もう、ジェームズったらまたそうやって!大丈夫よ、マナ。ジェームズの言うことなんて聞かなくて良いから」

そうは言われても、マナは不安を拭いきれずにいた。もし、何か不具合が生じて足がどこかに行ってしまったらどうしよう??けんけんしながら買い物をしなければいけないのだろうか。そうだったらとても大変だ。
リリーは最後にマナにブレスレットをつけると、にっこりと笑った。

「さあ、もう9時になるわ。帰る時間になったらブレスレットにしっかりと触れているのよ」

マナはブレスレットを見た。緑色の数珠が綺麗に並んでいるのを見て、なんだかリリーの瞳みたいだ、と思った。
そんなことを考えていたら、いつの間にか不安はちっぽけなものになった。

「いってらっしゃい。漏れ鍋、楽しんできてね。あとお土産よろしく」
「本当は私達も行けたら良かったんだけど…」
「うん、大丈夫。離れられないことは分かってるから。お土産買ってくるね、いってきます!」

漏れ鍋!
マナは暖炉に吸い込まれていった。