The spitting image
あれからライナスは買い物に手伝ってくれると言ったが、ライナスの顔色があまり良くなさそうだったのでマナはやんわりと断った。その代わり、マナがお礼の手紙を書いてもいいかと聞くと、ライナスは快く了承してくれた。その後ライナスとは別れ、マナが一人で大鍋やら教科書やらを買っていると、途中でふとクシャッと、それでいてふわっとしたくせっ毛の黒髪を見かけた。あれは、そうだ。
マナのよく知っている人物だった。
「ジェームズ!」
振り返った男の子は、ジェームズそのものだった。
「ジェームズ、あなた、外に出れたの」
「え?あ、あの、僕ーー」
マナは思わず男の子のいるお店へと駆け込んだ。驚きの余り何を話せばいいのかわからなかったが、目の前の男の子もいきなりのことで吃驚しているようだった。
「あら、可愛いお嬢さん。あなたもホグワーツなの?」
全身を藤色の服で身を包んだ、ずんぐりとした女性がやってきた。マナはお行儀よく「はい」と答えた。
女性はマナににっこりと笑うと、マナを踏台に立たせ、マナは頭のてっぺんからつま先まで身体中をペタペタと触られた。マナはそこで漸く、店先の看板に『マダムマルキンの洋装店ーーー普段着から式服まで』と書いてあるのを見つけた。
それよりもマナは、隣にいるジェームズの事が気になって仕方がなかった。
「ジェームズ、どうしてあなたそんなに若返ってるの?それにリリーは…」
「それなんだけど…」
マナの声は今度は男の子に遮られた。少し記憶とは異なる声だ。
「うん」
「僕、ハリー……」
「ハリー?」
聞き覚えのない名前に、マナは漸く目の前の男の子が他人の空似だということに気付いた。よくよく見れば、服は使い古されてヨレヨレだし、身体も細く痩せていて、何よりも目の色が緑色だった。リリーと同じ目だ、とマナは思った。
「ごめんなさい、人違いでした」
「ううん、大丈夫。それよりジェームズってーーー」
「マナ、ここにいたのか」
「あ、ドラコ」
ハリーの後ろから声をかけたのはマルフォイだった。ハリーは途端にうげっとした顔になる。
「手を離すなと言っただろう!」
「…そんなこと言われてないよ?」
「く、口答えするとは生意気なやつだ」
マナは首を傾げたが、マルフォイはなりふり構わずマナの手を引っ張った。
「とにかくすぐに父上のところに戻るぞ」
「あっ…」
ぐいぐいと進んでいくマルフォイにマナは思わず前のめりそうになる。すんでのところで堪えたマナは、はっとして振り返り、繋がれた手と反対の手を大きく振った。
「ハリー、さっきはごめんなさい!また会えるといいね!」
豆鉄砲を食らったようなハリーの顔は、すぐに人混みに紛れて見えなくなった。
「ハリーだって?」
ドラコが驚いたように振り向くも、ハリーを見ることは叶わなかった。
「知ってるの?」
「知ってるもなにも、"生き残った男の子"ぐらい、いくら世間知らずの貴様でも知ってるだろう」
「"生き残った男の子"……」
「まさか知らないのか?」
マナは知らなかった。
今まで読んできたどの本にも、ハリーとは出てこなかったし、"生き残った男の子"も出てこなかった。それに、マナが見たハリーは英雄とは程遠いように感じた。
「まあいい…ポッターとは仲良くしといて損はない。かの有名な英雄を従えていると知ったら僕の威厳がつくだろう?」
マルフォイはニヤニヤとしながら言った。
「そういうものかなぁ…」
「ああ。世間知らずのお子様には理解しがたいかもしれないけど、損得が何より重要なんだ。何より純血の僕以上に英雄に相応しい友人などいないだろう」
友達ってこうやって作るのだろうか。
友達の作り方を知らないマナは、なんのステータスのない自分と友達になりたいと思ってくれる人がいるか酷く不安になった。
すると、今までぐいぐいとマナのことを引っ張っていたマルフォイが急に止まった。おかげでマナはマルフォイの背中に顔面をぶつけてしまった。
「いたっ」
「愚図め。ここだ」
マナは特に被害のあった鼻を押さえながら、マルフォイの言う"ここ"を見上げた。
「"オリバンダーの店?"」
「父上がお待ちになっている。行くぞ」
ドアの前には気難しそうな顔をしたルシウスがいた。
またしてもいきなりぐんと引っ張られたマナは、今度こそ前につんのめった。マルフォイはそんなマナを気にも留めなかった。