Professor of garlic odor

マナは困っていた。

杖を買ってから、全力でマルフォイを追いかけて、無事見つけたところまでは良かった。マルフォイは少し機嫌が悪かったが、それも暫くしたら直っていた。
制服は買った。教科書も全部揃えた。杖も大鍋も、クリスタル製の薬瓶、望遠鏡、真鍮製はかり全てを揃え、残るはペットだけだったが、マナはここで買うつもりは毛頭なかったため買い物は無事終えたことになる。
つまり後は帰るだけなのだが、それが問題だった。

(どうしよう……帰り方が分からない)

マルフォイ一家はルシウスの妻ーーナルシッサと共に既に家へと帰ったらしい。マナは人気のない「漏れ鍋」で、1人佇んでいた。
すると、何だかニンニクの匂いがする。パブでニンニク料理でも出しているのだろうか。それにしては何とも強烈な匂いだ。

「あ、あ、あの、す、すいません」
「え?」

一瞬自分に話しかけていると分からなかったマナは、少し遅れて振り返った。すると以前よりも増して強烈なニンニク臭がして、マナはこの人が原因だと悟った。

「そ、そ、そのに、荷物は、ホ、ホグワーツのし、新入生だね。え?お、お、お嬢さん」
「は、はい」

青白く神経質そうな男は頭にターバンを巻いていた。その酷くどもる姿に、マナも思わずどもってしまう。

「こ、こ、こんなところに1人でな、何を?」
「帰り方が……分からないんです」
「そ、それはた、大変だね。き、き、きみ、な、名前は?」
「えっと……、マナ・クレイシアといいます。あなたは?」
「わ、わ、私はクィレル。ホ、ホグワーツの教授をし、している」

クィレルと名乗ったその男は、マナの名前を聞いた途端、僅かに目を細めた。マナはそのことに気付いたが、知り合いに似た名前の人でもいるのだろうとさして気には止めなかった。

「と、ところで君の言ってたか、帰り方についてだが、で、で、出かける際にな、何かい、言われなかったのかね?」

マナはそう言われて気付いた。確か、リリーが何か言ってくれた気がする。そこでようやくマナは自身のブレスレットの存在を思い出した。


「…! そういえば、帰る時間になったらブレスレットに触れていなさいって」
「だ、だ、だとすればそ、そのブ、ブレスレットがポ、ポ、ポートキーだと思うがね。え?」

ポートキーと言われて、マナはすぐにピンときた。瞬間移動する手段としてしばしば用いられることがあり、「ポータス」と唱えることで作られるポートキーに触れることで定められた時間に定められた場所へ着くことが出来る、と以前本で読んだことがあるからだ。
だとすれば、陽が少し傾いてるこの時間帯、もう少しでポートキーが発動するだろう。マナはようやく安心した。


「どうもありがとうございます、クィレル先生!」
「い、いや、当然のことをし、したまでだよ。き、き、気を付けて帰りなさい」


そうどもりながら言うクィレルに対し、自分よりもクィレルの方が気を付けて帰った方が良いのではないかとマナは思ったが、言わないことにした。

「と、ところで君の家は一体ーーー」

ブレスレットがカタカタと小刻みに震え始めた。どうやら帰るタイミングが訪れたようだ。クィレルが何か言いかけたが、マナはブレスレットに気を取られクィレルが何を言いかけたのか分からなかった。

「じ、じ、時間のようですね」
「ええ!……クィレル先生、またホグワーツで!」

さようなら!と言う声を最後にマナはクィレルの前からはいなくなっていた。