「え、いや、飲み物ぐらい自分で…」
「いいから言え。」
「、み、ミルクティーがイイデス。」
「ん。」
ガコンと音を立てて出てきたミルクティーは、さっきまで私の手を掴んでいたそれに拾われて、きれいな放物線を描きながら私の手に収まった。
「ありがとう。」
「おう。」
短く答えたカゲは私の隣に座って缶コーヒーを飲んだ。
「選抜、」
「!」
「お前らの隊も入ってたろ。その妙な刺し方と関係あんのか?」
「…私、どんな刺し方してる?」
「中途半端。いつもならあったけえ空気の塊みてぇなので思いっきり刺してくるくせに、今のお前は生ぬるいもんで触れるだけで、いつも以上にくすぐってえ。」
「あー、ごめんね。」
迷ってるのか、動揺しているのか、わからないけれど。
“死ぬかもしれない”と言われたことが、遺書を書くってなって、大好きな人の顔を見た途端実感したのかもしれない。
もう、会えないかもしれないってことを。
「!?、おい、太陽。」
「え?…あれ?」
無意識にポロポロ出てきた涙は、拭ってもどんどん出てきて止まらなかった。
泣きたいわけじゃないのに、弱いと思われたくないから、泣きたくなんかないのに。
「(、ぜんぜん止まんない…)」
考えたこともなかった。ボーダーにはベイルアウトがあるし、何度首をはねられても、心臓を撃ち抜かれても生身は無事だったから。死は遠いものだと思ってた。
「…嫌ならやめろ。」
「!!」
「遠征に行くのが嫌なら、B級に戻ってフリーでやるなり、オペに転向するなり、ボーダーをやめるなりしろ。」
「、いやだ!」
ああ、子供っぽい。泣きながら、駄々っ子のように嫌だなんて。
「…嫌だ、ボーダーはやめたくない。戦闘員も、冬島隊も、やめたくない。
楽しくなってきたの。銃撃手になって、冬島隊に入って、みんなと模擬戦して楽しいの。」
「カゲと対等でいられるのが、一緒に強くなれるのが楽しいの。」
カゲは影浦隊の隊長で、私は冬島隊の隊員。
隊は違うけど、個人戦や任務を重ねて共闘したり、時には対戦相手になってもらったり、隣で戦って、
楽しそうな顔につられて、私も楽しくなっていた。楽しそうな彼が大好きになってた。
「カゲと一緒に戦いたい。だから、ボーダーやめたくない。」
勢いに任せて言ってからハッとした。私今何を言ってた…?
「(あー、恥ずかしい!)」
鼻をすすりながら下を向いた。顔にどんどん熱が集まってきて、恥ずかしすぎて前が向けない。
「…カオ上げろ。」
少しして、かけられた声にびくりとしながら、恐る恐るカゲをみた。
なんだかふてくされたような顔をしたカゲに驚きながらも、次の言葉を待った。何度か唸ったりしたカゲは、小さく舌打ちをして、それからまた少ししてから、ほんの少しため息をついた。
それを合図にしたかのように、カゲの右手が私のほっぺに伸びて、なかなか止まらない涙をぬぐった。
「…なら、迷ってる暇なんかねーだろ。」
「!」
「何に迷ってんのか知らねーけど、戦いたい目的がはっきりしてんなら大丈夫だろ。不安になんてなってんじゃねーよ。」
左のほっぺから右へ移動させて、また拭う。
不器用にぐいっと強めに拭ってくる手は、少し痛いけど暖かかった。
「少し言い過ぎた、悪かった。」
ふてくされた顔から、ばつが悪そうになった彼がなんだかおかしくなって、少し笑った。
◆ ◇ ◆
私達冬島隊の初遠征は五日後だ。
隊長に出さなきゃならない手紙の内容は、その日のうちに案外あっさり出てきて、シンプルな、たった一行の文になった。