物置で眠っていた菫を見つけたのは母ではなく、鬼の噂を聞きつけ村へとやって来た当時の炎柱・煉獄槇寿郎であった。
「此処に居たのか。もう大丈夫だ、こっちへおいで。」
「…母から言いつけられて居るのです。出てはいけないと、母から。母は、母はどこですか?」
何故いないのですか、貴方は誰ですか?と言葉を続けた菫だったが、槇寿郎の顔を見てピタリと言葉を止めた。
目の前の見知らぬ男は、何故かハラハラと涙を溢していた。
「すまない、もっと早くに来ていればよかった。君のご両親を助けることが出来なかった。本当にすまない。
だが君だけでも見つけることが出来て良かった。」
君は彼らに良く似ている。と、男は涙を流しながら菫の頭を撫でた。
菫は、男が何を言っているのか分からなかったが、涙を流す姿を見て、いつか幸せだと言って泣いていた父を思い出し、涙の流れる頬に手を伸ばした。
「なかないで。」
頬に触れた小さな手は暖かかった。
槇寿郎は震えながらその手を伸ばした小さな体を抱きしめ、良く残った、良く生きた。とうわ言のように言葉を溢す。
見知らぬ男ではあったが、抱きしめられて嫌な気持ちにはならなかった。男からは父と同じ、太陽と藤の花の香りがした。
「鷹丸、菖蒲殿、間に合わなかった、すまない。文句ならあの世でいくらでも聞いてやる。だから今は、せめて君達の想いは、俺が守ろう。」
槇寿郎は立ち上がると、菫の手をとり物置を出た。菫はというと、父と同じ香りのする男に安堵を覚え、手を引かれるまま物置を出ることにした。
外の光が眩しくて、徐々に慣れていくまで目が開けられなかった。ゆっくりと慣れていく視界に映った、燃え尽きた我が家を、菫はまるで夢を見ているかのような気分で見ていった。
手を引かれ歩く間も、疲れて抱えられている間も、菫は夢心地のままどこか現実味がなく、煉獄邸へ到着し、槇寿郎が妻の瑠火に事情を説明したところでようやっと理解出来た。
父と母は、迎えには来ないのだと。