先の戦から数ヶ月、戦神と呼ばれた昭王様がお亡くなりになられ、王騎様はしばらく戦から離れると仰った。私は相変わらず騰様と剣を交え、練兵に同行し、毎日くたくたになるまで体を動かした。そうすれば、余計な事を考えなくていいと思った。
「騰様、今日も剣を……」
「駄目だ、毎日その調子では身体を壊すぞ。今日はゆっくり休め」
「私は大丈夫ですっ!」
「殿も心配しておられる」
出かかった言葉を寸前で飲み込み唇を結ぶ。剣を持つ腕は微かに震えていた、筋肉も骨も限界に近い。それでも、何かをせずにはいられなかったのだ。夢中で剣を振るえば、一閃の後に頭が空っぽになる。それを繰り返せば何も考えずに済んだ。
「何か悩みでもあるのか」
「いいえ、悩みなど……」
瞼を閉じれば王騎様の背中を思い出す。身の程を弁えない想いは絶対に誰にも知られてはいけない。
「晶霞」
この時の騰様の声は私が知っているものと少し違った。顔を上げると、いつもの騰様、いや、そうではない。
「私で良ければ力になるぞ」
騰様は笑っていた、けれどその表情には何か違う感情が滲んだように見えた。ここまで心配して下さる騰様の優しさをありがたく思いながらも、私も心とは裏腹に笑顔を作るのだった。
「本当に何でもありませんよ」
何か言われる前に、一礼してその場を辞した。部屋に戻る気にはなれず、屋敷の掃除をしようと用具入れのある倉庫へ向かった。
王騎様が戦に行かれることはしばらくないだろう。せっかく連れて行って頂けるようになったのに、と思えどそれは私の我が儘であると理解していた。
昭王様と王騎様は王と臣下という、ただ単純な関係では無かったように見えた、私のような者の考えの及ばぬところで、もっともっと深いところで分かり合えていらっしゃったのだと思う。だから尚更、王騎様は悲しかったに違いない、ずっと昭王様と戦場に行きたかったに違いない。国葬よりお戻りになられた際の王騎様を思い出す。昭王様の戦への思いを、夢を、そのまま心に閉じ込めて大切にしたいのだと仰った王騎様の目は、寂しそうな色をしていた。
あの戦で見た王騎様の背中をもう見られないかもしれないと思うと、残念だと感じる自分と、少しだけ安心する自分がいた。気を抜けば王騎様を目で追い掛けていることがある、初めての感情は私の意志とは無関係に動いていた。これ以上思いを募らせてはいけない、誰にも知られてはいけない。行き場の無いこの思いをどうすればいいのか、私にはどうしても分からなかった。