窓を拭いていると、空の向こうに黒い大きな雲が見えた。雨が来る、洗濯物を取り込まないと。一旦拭き掃除を止めて外へ出る、屋敷の裏へ回り干してある洗濯物を下ろし始めた。最近は雨続きでやっと洗濯物が沢山干せると思ったのに。両手が一杯になったので中へ戻り、また洗濯物を下ろすを繰り返し、七回目でようやく全て取り込む事が出来た。朝一番から干していたのできちんと乾いている。


「雨が来ますねェ」

「王騎様、中にお戻り下さい。濡れてしまいますよ」

「ええ、晶霞も一緒に」


ぽつり、と遠くで雨の音が聞こえた気がした。







屋敷の窓を閉めて、台所に向かう。湯を沸かし、温かいお茶を用意して盆に乗せた。先ほど王騎様の部屋に呼ばれたが、お話とは何だろう。


「王騎様、失礼致します」

「ええ、入りなさい」

「先にお茶を入れますね」

「気が利きますねェ」


杯にお茶を注いで王騎様の前へ、自分の分は少なめに注いで急須を端に置いた。促されて椅子に腰掛ける、湯気の立つお茶を一口飲むと、王騎様はゆっくりと話し始めた。
それは最近の秦国の情勢のお話だった。

昭王様がお亡くなりになられ、先日即位された大王様も僅か三日でお亡くなりになられた。次に即位されるのは子楚様という御名の太子、背後には呂氏という商人がいて、その方の手腕と金で王位継承権を得られた。しばらくは、呂氏を中心に国が回る、裏ではまた金が流れ、それは今後戦にも及ぶだろうと。


「ここまで言えば、私が何を言いたいのかわかりますね」

「……はい」


戦の裏で金が流れる、商人であれば利益を考えるだろう、国は潤うかもしれない、だがそれは呂氏の利益にも直結するに違いない。王騎様が戦場へ求めたものは無くなってしまう、少なくとも呂氏が権力を振るう限りは。


「王騎様が戦う事はもう無いかもしれない、という事ですね」

「フフ、そうです」


王騎様は昭王様の夢や思いを大切にされている。それが無いのであれば、王騎様にとって戦は無意味。


「貴女をもっと戦に連れて行きたかった」


残念そうに眉を顰めた王騎様を見て、私は大きく首を振る。王騎様が求めた戦でなければ私にとっても意味が無い。ゆっくりと瞼を閉じた。


「私は、王騎様の、大将軍の背中を見る事が出来ました。あの思い出だけで、十分です」


姉様が見ていたものを垣間見る事が出来た。あの光景を目に焼き付けて、いつでも思い出せる、今でも胸には熱いものが残っている。


「また私が戦に戻ろうと思えるまでは、貴女に私の全てを教える事にしましょう」


王騎様から戦術を教わり、剣を極め、いつか王騎様が戦に戻った時の為に今よりももっと強くなりたい。新しい目標は途方も無いものだったが、王騎様の笑顔を見ると、不思議と遂げられるような気がした。ああ、私はやっぱり王騎様が好きなのだ。それは行き場の無い感情だと思っていた、けれど違った。


「フフ、今まで以上に厳しくいきますよォ」

「よろしくお願い致します!」

「ですが、しばらくは身体を休めなさい」


王騎様への思いを、強くなる為の糧に。いつか王騎様をお守り出来るくらい強くなる為に、この感情を大切にしよう。いつか戦場で、私が命を賭してお守りするのはこの御方だ。


「はい、王騎様」






To be continued.