「どうかしたのか」


惚けた私を見て騰様が顔を覗き込んだ。目の前の杯はすでに酒で満たされていて、透明の水面が僅かに光る。それを見て自然と頬が緩み、体温が僅かに上がるのを感じた。


「王騎様や騰様とこうしていられるのが嬉しいなと思いまして」

「貴女は本当に素直に育ちましたねェ」


三人で乾杯をして酒を飲む、喉の熱さも心地良く感じるほど嬉しかった。それからは食事をしながら酒を注ぎ合い、色々なお話をして、本当に楽しい時間を過ごした。親のいない私にとって、誰かと賑やかに食事をするという経験はほとんど無かったのだと思う、ここに置いていただくようになったから優しい方達に出会い、こうして笑って過ごせている。この方達を失いたくない、このままでいたい、そう思わずにはいられなかった。


だから忘れていたのかもしれない、お二人があんなにも長くお話をされていた事を知っていたのに。
様々な事を学んで分かったつもりになっていたのだ、この日々がずっと続くと何の根拠も無いのに信じて疑わなかった。だから、騰様がどうしてあんなに慌てていたのかを考えもしなかった、王騎様が話の合間に見せる表情に気付いていたのに気に留めなかった。


王騎様はこの時すでに決められていたのだ、王弟君の反乱にご自身も加わるという事を。そしてそれは、私が感じていた微かな変化のほんの一端でしかなかった。


少しずつ少しずつ、何かが動き出す。見えなかったはずのものにいつの間にか飲み込まれるまで、もうそれほど時間は残されていない。






To be continued.