将軍になってからの姉様に迷いや憂いは無いように見えた。秦国の六大将軍に名を連ねるようになった姉様の戦場はいつも激戦である、というような話が聞こえてくる事も多くなったが、私は少しも心配してはいなかった。姉様の強さは歳を重ね、経験を積むごとに揺るぎないものになっていたから。いつも姉様と打ち合いをしている私が、それを一番良く知っていた。
「晶霞、強くなったね」
「まだまだ、姉様には遠く及びません」
「そろそろ戦に行きたい?」
「はいっ、早く王騎様達のお役に立ちたいです!」
姉様が私の歳にはもう戦場で剣を振るっていた。その時の姉様に実力は及ばなくても、戦場で自分の力を試してみたかった。
「晶霞なら絶対大丈夫、私からも王騎様にお願いしてみるから。でも最初は遠くから見てるだけにしなよ」
王騎様に連れて行っていただけるなら何だっていい。戦場の空気をこの身で感じてみたい。鼓動が高鳴り、ぎゅっと柄を握り直した。姉様と私の間を涼しい風が吹き抜けた。
「城は、幾つ取られました?」
「……九十九個だよ。あと一つなの」
「姉様、やっと、やっとですね。私も嬉しいです」
「晶霞が泣いてどうするの。でも、ずっと応援してくれて本当にありがとう」
数日後、姉様と王騎様は戦に向けて出陣した。勝報が届くと信じて疑わなかった。
姉様は良くも悪くも六将として、強い武将としてとても有名だった。だから凶報は瞬く間に広がった。
六将摎は戦場にて病に倒れ、代わりに王騎将軍が敵を退けた、と。
姉様はその存在が広まる前に仮面を着けて戦場に立っていた為、その性別や年齢すらあまり知られていなかった。だから病死などというありもしない噂が真しやかに流れてきた。そう、これは嘘に決まってる。
「騰様っ……。そ、そんな訳ありませんよね」
騰様は複雑そうな顔で私の肩に手を添えた。
これはただの誤報で、数日すれば王騎様と姉様が笑顔で帰ってくるはずなの。だから、百個目取ったよ、と幸せそうな顔の摎姉様に私も、
「おっおめでとう、っございます、って言うの……う、ぐっ」
「晶霞……」
すぐに摎将軍死亡の伝書を携えた使者がやって来た。姉様の死を悼む者、王騎様を称える者、そのどちらとも私には見ていられなかった。まだ姉様が戻って来てくれるような気がしていた。
数日後、予定通り軍は戻ったがそこに姉様の姿は無かった。代わりに王騎様が私の所においで下さった。
「私が、摎を守れなかった。貴女の姉を守れなかったのはこの王騎です」
静かに拳を握る王騎様を見て、もう一生姉様に会えないのだと気付いた。どうして、どうしてという言葉は喉を震わせるには至らず、その代わりにじわじわと視界が滲んだ。王騎様はとても悲しそうに私を見る、固く握り締めた拳に手を重ねるとぐしゃぐしゃの私を抱き締めた。悲しくて悲しくて涙が止まらなかった。
To be continued.