「上手くやってくれたようですね」
膝を付いたまま頭を下げると、埃と血で汚れた髪に手のひらが触れた。頬が緩みそうになるが、静かに目を閉じて気を引き締める。
単騎でこちらに向かってきた少年をやり過ごし、勢いのまま森へ入った所までは良かった。後を追い、昌文君と合流するまで見届けようと思っていたが、すでに気配は無くなっていた。すぐさま少年を捜索しようとした私を騰様が留め、怪我の手当てをして王騎様の元へ戻ったが、少年が気掛かりでならなかった。
隣にいる騰様の表情を盗み見る。少年を見失ったと気付いた時、騰様の表情が少し曇ったような気がした。引けと仰られたのに私が聞かなかったからか、見失ってしまった事に呆れられてか、思い当たる節があり過ぎて心が重い。
「私はこれから竭氏の所へ向かいます。明日からは更に慌ただしくなりますから、貴方達は戻って身体を休めて下さい」
「はい」
王騎様達を見送り、騰様達と馬を繋いだ所へ向かった。
歩く最中にふと後ろを振り返る。主を失った宮殿は未だ衰えない炎の揺らめきで不自然に明るく、少年を見失ったという私の不安を煽り心に影を落とす。どうか無事でありますように。失うにはあまりに惜しい少年の瞳に同じ炎を見た気がして、そう願わずにはいられなかった。
「暗い顔だな」
「昌文君と合流するまで見届けることが出来なかったので」
自らに対する情けなさを正直に口にすると、やはり声まで暗くなる。少年が丘の上から駆け下りて来た時、一瞬、真っ向からその剣を受け止めてみたいと思った。そんな私に気付いた騰様に名前を呼ばれていなければ、そのまま剣を交えていたかもしれない。そして少年が森へ入ってからも、我に返った私の身体は少しの間動かなかった。
「こちらの意図に気付かれず殺さず逃がすという目的は達した。お前は殿の期待に応えた、殿も褒めておられただろう」
「騰様があの時止めて下さっていなければ……」
「気にするな、そのために私がいたのだ」
私の不甲斐なさを気にするなと仰って下さる騰様の言葉に少しだけ気持ちが軽くなる。助けていただいてばかりだな。
「何があってもお前の所為ではない、お前は気にしなくてもいい」
私に言い聞かせるように言葉を重ねる。そんな騰様に私は何も言えなくなってしまった。
To be continued.