夕餉の支度が終わり、一息をついたところで窓から差し込む西日に気付いた。
騰様によると、西方の山に向かった大王様の一向は予定通りに進めば明日には咸陽の近くまで戻ってくるという。王騎様もそれに合わせて王宮に入る準備をしていた。王宮の中は王弟に膝をつく者で溢れていて大王様の味方はほとんどいない。王騎様はどちらにも加勢するつもりがないようなので、彼らだけで王宮を取り戻すしかない。本当にそれが叶うだろうか。


「いい匂いがしますね」

「王騎様」


椅子から立ち上がろうとすると、それを制して王騎様が向かいに腰掛けた。西日に晒され、彫りの深いお顔に薄い影が落ちる。


「不安ですか」


優しい声色で探られ、思わず苦笑してしまう。


「少し」

「貴女には私と共に見届けてほしいと思っています」


静かな声に顔を上げると不意に視線がぶつかって目が逸らせなくなる。深い瞳の奥に映る私は瞬きを忘れたように動かない。


「時代が動く瞬間を、見届けてほしい」


真っ直ぐに向けられた視線と言葉、きゅっと胸が鳴ったような気がした。言葉が詰まり首を動かすだけになった私に少しだけ目元を緩め、ゆっくりとこちらに手が伸びる。


「貴女は次の時代を生きる者ですからね」


頭に置かれた手の平に言い様のない寂しさが込み上げた。まるで私だけが次の時代に送り出されたような、そこに自分はいないのだと言われたような気がした。
考えるよりも早く、私はその大きな手を取りぎゅっと握り締めていた。


「そこには、次の時代には、王騎様もいらっしゃいますよね」


私を見つめたまま、僅かに目が開かれる。胸の奥から込み上げるものに動かされるように声を上げていた。


「王騎様のいるところが私の居場所だと思っています」


次の時代を見たい訳でも新しい時代を生きたい訳でもない。許されるなら、どんな形でも良いからどこまでもついて行きたい。王騎様がいなければ私に意味など無いのだから。