「そこには、次の時代には、王騎様もいらっしゃいますよね」


私は強い、中華全土にも私と同等の武将はそういないと経験や実力に裏打ちされた自信がある。だが人は必ず歳をとる、誰しもが老いていく。私も随分歳をとった。次の時代がすぐそこまで来ている、そしてそこで生きていくのは晶霞のような若い者達だ。昭王崩御の際、私の役目は次の時代の為の土台を作ることだと気付いた。託すに値する時代にするために私がやるべきことだと。その先に私がいなくても構わない、そう思っていた。


「王騎様のいるところが私の居場所だと思っています」


握られた手は少し震えている。頭を撫でてばかりいたからかあまり気にしたことはなかった、すらりと伸びた指は両手ではあるが私の手を握り締めるほどに成長している。幼い時は指を掴むのが精一杯だったのに。子供ではないと分かっているはずだった。いつの間にこんな表情をするようになったのか、いつも側で見守ってきたつもりが目の前には私の知らない晶霞がいる。
きっとこれからも沢山の経験を積んで、武人としても一人の人間としても更に成長していくことだろう。私と共にいることで晶霞の選択肢を狭めはしないかと考えない訳ではない。


「貴女の人生を歩んでも良いのですよ」


びくっと肩が震えて瞳がゆらりと揺れた。言葉を選んだつもりだったが大きな瞳はみるみるうちに涙を溜める。


「晶霞、貴女が私と共に生きようとしてくれていることは嬉しい。けれど、それだけの人生にしてほしくはないのです」


晶霞の手を握り返す。


「貴女は若い、目の前には沢山の道が広がっている」


突き放したいわけでも縛り付けたいわけでもなくただ知ってほしい。選べる人生は一つではない、どれを選択しても構わないのだと。


「どの道を選んでも、貴女を大切に思う気持ちに変わりはないのですよ」


音がしそうなほど大きな粒が机に落ちる。


「他の道ではなくこの一つしか、選べないのです」


絞り出すような声を上げたかと思うと握り締めていた私の手をゆっくりと離す。途端に温度が下がるのを感じ、思わず手の平に視線を落した。


「どうか、お許しください」


頭を下げた晶霞の顔は見えない。


「晶霞、こちらへおいで」


顔を上げて立ち上がり小走りに駆け寄ってくる姿を見て、温かいものが胸の奥にじわりと広がる。


「貴女を泣かせるつもりはなかったのですよ。私の方こそ許してほしい」


抱き締めると小さな頭がふるふると揺れ、私の服をぎゅうっと握る。あやすように背中を撫でてやるとぐずっと度々肩を震わせている。
それが今の選択ならば構わない。晶霞が前を向いて生きていけるならそれで。遠い未来を想像するのは気が引けたが、少し先のことなら簡単に思い浮かべることが出来る。まだしばらくは留まらないといけないようですね。