赤くなった目蓋を水で冷やすとちくっと微かな痛みが刺した。手拭いで顔を拭き両手で頬を叩く。
王騎様を困らせてしまったに違いなかった。けれどどうしても私は他を選べない。私は王騎様のお側でお役に立ちたいだけ、それだけだ。 私の大切な人はもう一人しかいないから。
食事を膳にのせて運び出す。窓の外から見える空には月が顔を出していた。
「失礼します」
「はい」
高い声で返事があった。一呼吸置いて戸を開けるとありがとう、と出迎えてくれた。笑顔の中にも不安が混じる、目の下には不眠の証があった。
「昌文君はご無事だと伺っています」
「良かった」
ほっとした様子を隠さずに手の平を胸元にあてる。こちらへ向かっていることは伏せているが、少しでも安心してほしかった。大切な人の側にいられないこの方の為に。
「きっとお戻りになられます」
「晶霞、貴女には本当に感謝しています」
いいえ、と首を振る。そんな私の目を真っ直ぐ見つめると一層真剣に唇を結んだ。
「貴女に頼みがあります」
両手で手を握られて戸惑うが、先ほどの私とそっくりだと思うと動けなかった。よく見ると睫毛が濡れていた。きっと聞かなければ後悔する。
「夫を、夫のことを助けてあげて」
心配で、でも動けなくて、顔を見ることも出来ない。その気持ちを考えると胸が苦しくなるようだった。
「はい。私の出来る範囲ですが、助力させていただきます」
「ありがとう、ありがとうっ」
誰だって、 大切な人は守りたい。何と引き換えても良いとさえ思う。
昌文君が王騎様と顔を合わせるようなことがあれば、また剣を交えることになるかもしれない。そうなれば私は王騎様を守るしかない。この方の夫に剣を向けることになる。大切な人を守るというのはそういうことだ。
To be continued.