最低限の荷物をまとめ、剣を腰帯に差す。夜遅くまで眠れずにいたので少し身体が重いが出発の時刻が迫っていたので早足で厩舎へ向かった。
自分の馬に水や保存食を積んで、王騎様と騰様の愛馬を連れて屋敷の出入口まで移動するとちょうど騰様が姿を見せた。


「どうした、その顔」


そういえば目蓋の赤みは引いていないかもしれない、遅寝も相まって騰様が控えめに驚くほどにはひどい顔をしているというとこだ。


「殿が心配するぞ」

「多分、王騎様は御存知でいらっしゃると思います」


昨日の会話を思い出し罰が悪くなる。視線を下げると凰が鼻で横顔をつついた。擽ったいが励まされたような気がして代わりに顔を撫でてやると満足そうに鼻息を鳴らす。凰とのやり取りを見ていた騰様は口元を緩めてフッと笑った。


「殿の馬を手懐けるか、将来が楽しみだ」

「王騎様や騰様のようにこの子だ、と思えるような馬に出会えると良いのですが」


馬はとても頭が良い。人の顔や声を覚えるし、毎日世話をしてやれば喋れはしないが心が通じるような気がする。黒く艶めく身体を撫でてやると満足そうに鼻息を鳴らした。


「騰様は此度の反乱、どう終結するとお考えですか」

「終結か」


そう呟くと少しの間考え込むように黙り込む。風が吹くと騰様の髪がさらさらと揺れるのでそれに気を取られているうちに答えが出たようで、そうだな、と続けられた。


「数で言えば王弟側に圧倒的な利がある、だがそれだけで勝ち負けが決まるものでもない」


頷きながら騰様の言葉を待つ。


「結局、今はまだ分からんな」


思っていた答えが帰ってこなかったことを多少残念に思いながらも、騰様の言葉に納得した。


「一つ言えるのは、これで終わりではないということだ」

「終わりではない、と仰いますと」

「この反乱はこれから始まる時代のうねりのほんの始まりに過ぎないということだ」


これが始まりなら願ってもいないことだ。国が、中華がどうなっていくのかを自分の目で確かめる、それはきっと王騎様にお仕えする上で役に立つ。今日の経験もきっと糧になる。
腰にある剣の柄を握る。あの感覚を忘れてはいない、いつ剣を交えることになってもいいように準備は整えていた。相手が誰であっても王騎様の敵であれば全力で斬る。私に出来るのはそれだけだ。


「待たせましたねェ」


矛を携えた王騎様が出入口から現れた。馬の手網を王騎様へ手渡すと、ありがとう、と受け取り、そのまま私の顔をじっと見つめる。


「今日は長い一日になるかもしれませんよ、大丈夫ですか」

「はいっ! 大丈夫です!」

「よろしい、では行きましょう」