「王騎様っ、見えました!」

「山の民を引き入れたというのは間違いないようですねェ」


城門のへりから見える彼方にぞろぞろと現れた者達は独特の装束と面を身に付けていた。ここからでは大王様や昌文君がいるのかどうか判断がつかない。


「そろそろ移動しましょう」


戦いの場になるとすれば、それはもっと本殿に近い場所になるはずだと視界の良い広場へ移動する。王騎様と騰様から離れないように急ぎながら後ろを振り返ってもう一度少年の姿を探すが、やはり姿を見付けることは出来なかった。



三刻もしないうちに山の民が広場に入り始め、その頃には王騎軍の数隊も王宮内に集まっていた。朱亀の門には竭氏の軍勢が溢れており、竭氏自身も出迎えに姿を見せている。肌にちりちりとした感覚があった。


「山の民よ、ここで武器を預かる! 全員武装を解かれよ!」


大きな声が響いたが、それに従う者はいない。
身体の小さな影が兵を斬り上げた一瞬後、すぐに怒号が飛び交いそのまま両軍がぶつかる。山の民は勢い良く竭氏勢に飛びかかっていった。


「えっ、」


人間離れした身のこなしに驚いて声を上げる。速い、甲冑を着ない分軽いからか、いや、それだけじゃない、私とは身体の使い方が全く違う。すごい、私もあんな風に動けたら。


「あの門をどう攻略するか」

「見物ですねェ」


山の民が朱亀の門を破ろうと武器を叩き付けるがびくともしない。ここは塀もかなり高い、通るのは難しいがこの門以外に本殿へ辿り着く道はない。


「あっ」


一人の少年が塀を駆け上がり飛んだ。落ちないっ。そのままへりを掴むとあっという間に門上へ到達してしまった。


「なんて身軽な、山の民でしょうか」

「面白い」


少年がそのまま門を内側から開けてしまったので、一行はなだれ込むように朱亀の門を突破した。目の前で忙しなく展開していく戦いに目が離せない。
竭氏が乗った馬車は方向を変え、奥の本殿へ向かう。それを追いかける山の民は速かった。だがあと一呼吸まで迫った刃は寸でのところで阻まれた。


「あれは……」

「魏興の弩行隊は手強いですよォ」


ぐっと唇を噛む。この手勢では形勢が傾いてしまう。


「姿を現しなされい! 大王嬴政!」


肆氏が大声を上げると小さな身体の少年が数歩前へ出る。面を外した姿に思わず身を乗り出して目を細めた。


「健気な大王ではありませんか」

「大王っ!?」


その姿は私が戦った少年そのものだった。ここから見れば背格好も顔立ちもあの日の少年のまま。あれが大王なら、少年はどこに。


「騰様……」


言葉に不安が滲むのは気付いておられたはずだった。何も言わずにいる騰様の横顔を見上げ、胸の奥に僅か雲がかかる。その時、大王様の右側から分裂した隊が争いの渦中を離れていくのが見えた。


「あの先は本殿へ続く回廊となっているのです」

「あそこからは沢山、人の気配がします」

「ええ、簡単には通れないでしょう」


それまでここが持ち堪えられるかどうか、あの別働隊に全てが託されている。弩行隊をものともせず、山の民は暴れるように戦っていた。この乱戦では昌文君がいつやられてもおかしくない。呼吸が少し乱れ、心臓がどくりどくりと鳴っている。昨夜の約束を思い出して震える手隠すように握り締めた。


「晶霞」

「はい」

「あそこへ行きたいですか」


王騎様はいつも私の心の奥の想いを掬ってくださる。


「……はいっ」

「危なくなれば離脱させますよ」

「はいっ!」


剣を抜き、返事と同時に飛び出していた。