「昌文君っ」
「誰だっ、お前は」
昌文君の後ろを取る兵を一薙で斬り、背中合わせになる。
「お話している暇はありませんっ、微力ながらお助けします!」
「むっ」
視界の端で馬上の魏興がちらついた。視線だけを巡らせ大王様の姿を探す。乱戦の真っ只中にあの小さな身体が見えた。まずい、あれでは中に入り過ぎだ。
「昌文君、大王様がっ」
「なに!」
「ここは任せて、早く!」
剣を払いながら昌文君へ告げると、すまん、という言葉と共に背中を向けて駆け出して行った。また視線を正面に戻す。こんな乱戦で戦ったことはない、けれど王騎様や騰様と比べるべくもない者達だ。この程度の相手に手こずるようで王騎軍が務まるか。自分自身を鼓舞し、全身の感覚を研ぎ澄ます。
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昌文君が魏興と刃を交えるのを遠目で確認する。あの様子であれば殺される心配はないが長引きそうだ。
周りの兵や山の民には疲労の色が見える。人数の差がここにきてまともに出ていた。先の見えない戦いの中、相手は倒しても倒しても後から無限に湧いてくるように思える、このままではもたない。
「戦意を断つな! 勝利は目前だぞ!」
振り返ると山の民の肩に乗った大王様が大声で檄を飛ばしている。声が違う、あの少年ではない。心に浮かぶ思いに頭を振ってまた剣を構えた。
「剣が折れても、腕をなくしても、血を流し尽くしても耐えしのげ! 耐えしのげば俺達の勝ちだ!!」
身体を心を底の底から震わすような声だ。王族というよりは武人のような印象を受ける。これが大王様、堂々とした振る舞いに年齢よりも年嵩に思えた。何より、ここで死なせてはいけない方だ。
奥歯を噛み、目の前の敵を斬り捨てて大王様の元へ向かう。
「危ない!」
大王様の後ろを守っていた兵が斬られた。すぐさまその後に入る。
「少しお下がりくださいっ」
「……お前は」
何か言い掛けたがそれを止め、柄を握り直す気配がした。
「俺は王だ、一人だけ下がってなどおれるかっ」
だけどこのままじゃ。
別働隊よ、急いで。祈るような思いを本殿へ向ける。
「え、あ」
本殿の方、肆氏の隣にいるのは、王弟
声を上げようとした時、二階から何本もの梯子が降ろされた。見上げると黒い影が空を遮る、大きな鳥のようだった。
突然現れた王騎様に広場は皆一様に動きを止める。
「ンフ」
梯子を伝って降りてきた隊の中に騰様の姿がないことに気付き辺りを探す。
「王騎将軍、貴殿に一つ聞きたいことがある」
馬上の魏興が前に出た。王騎様に剣を向けるつもりだ。動こうとする私を目で制して魏興の言葉を聞き流している。その僅か一瞬、瞬きの後にはもう王騎様の宝刀が大きく振り下ろされていた。ぐちゃりと地面に落ちたそれは思い出したように血飛沫を撒き散らす。派手な赤には視線もやらずに歩き始めると王騎様の前に道が開いていく。それは真っ直ぐ、大王様に向かっていた。