撤収の準備を整え荷物を背負うと来た時よりもずっと重く感じた。

中華の唯一王。

大王様はそう仰った。王騎様からの質問に怯むでもなく迷うでもなく、強く光る曇りなき眼で己の道を断言した。


「地に足をつけよ、とは面白い」

「王騎様」

「若さ故のおごりとも言えますが、本人は至って本気のようですねェ」


確かに、今日の戦いの中で大王様の心には激しい獅子がいると感じた。中華の唯一王、それは中華の統一を意味する。途方もない話かもしれない、だが大王様の目にはそんな未来が確かに見えているのだろう。次の時代、という王騎様の言葉が頭に浮かんだ。


「あの大王が何を成すか、楽しみですねェ」


視線を遠くに移して口角を上げる、こんな楽しそうな王騎様は久し振りだった。王騎様が羽ばたける空、もしもまたあの翼を見られるなら至上。私も王騎様から教わった全てをもって成すべきことを成す。


「あっ」

「どうしました」

「忘れ物をしてしまいました」


その場を辞して朱亀の門の広場へ向かう。どうしても気になっていたあの少年のことを確かめたかった。そして、出来ることならもう一度会って話をしてみたかった。

広場にはまだ人が残っていた。傷の手当をする人の間を縫って昌文君を探していると、朱亀の門を上った少年が小さい女の子と話している。少年の背に美しい装飾が施された剣が差されているのが見え、弾かれるように駆け出していた。


「それ!」

「あ?」

「その剣、どこでっ」


突然話しかけた私に怪訝そうな顔をしたが、指差した先の剣に気付くと眉尻を下げた。


「形見だよ、親友の」

「かたみ……」


呆然とする私に彼はことの次第を話してくれた。それは間違いなく、私が剣を交えた少年のことだった。少年は暗殺者の手にかかり殺されていた。そうだ、あれだけ似ていれば無理もない。彼は影武者の役割を見事に演じきったということだ。


「彼の名前は」

「漂」


漂、貴方は強かった。こんなところで死んでいい人間じゃなかった、もっと強くなって中華に知れ渡る武将になったはずだ。少なくても私はそう感じた。


「姉ちゃん、漂の知り合いか」

「いいえ」


知り合いというような間柄ではない、一度顔を合わせて剣を交えただけだ。私が勝手に、僅かな憧憬を持ち合わせていただけだ。王騎様や騰様へのそれとは違う、刃を打ち合えば互いの力が測れるような相手の、無限の可能性に憧れていた。また会えると信じていた、きっと生きていてくれると。


「姉ちゃん?」

「大丈夫、すいません」


私の様子から何を思ったのか、少年はぐっと握った拳を私に突き出して真剣な表情をして見せた。顔立ちは違っても漂とこの少年は不思議とどこか似ている。


「俺は漂と一緒に天下の大将軍になる! 夢の天辺まで、俺が漂を連れていくんだ!」

「天下の大将軍……」


そう、と呟くがほとんど声にならなかった。代わりに自然と微笑んでいた。
力強い眼差しに強い光を見出す。大王様からも感じたような、本当にこの少年なら、という何かが確かにある。


「私の名前は晶霞、貴方の名前は」

「信!」

「信。天下の大将軍は我が主、王騎様です。六大将軍と同じくらい強くならなければその夢は実現しませんよ」


信が目を見開いたのは言葉の意味を図りかねたからだろうか。いつかその夢の途中で王騎様の強さを目の当たりにすることがあるだろう、その時になればきっと分かる。信の様子を横目に踵を返して元来た道へ走り出す。


「俺は絶対、天下の大将軍になるからなっ!」


後ろからの大きな声に手を上げて応え、足を速めた。

日が西に傾いている。漂と戦った時のことを思い出していた。胸がじくじくと痛むのは、彼の死が私の所為ではないかと思ったからだ。私がきちんと大王様達と合流出来るまで見届けていれば、暗殺者に気付いていれば、今は変わっていたのではないかと考えてしまう。この棘はきっと私の中に残り続けるだろう、このような棘を死ぬまでにあといくつ抱えればいいのか。手足が冷える、どこまで続いているかも分からないような暗い闇がすぐ後ろにある気がして恐ろしくなった。




To be continued.