「晶霞、約束は覚えていますね」

「はい! 王騎様と騰様から離れない、本陣より前に出ない、王騎様の命に従います!」

「よろしい、では行きましょう」





先日のお言葉通り、王騎様の軍と共に戦に同行出来る事になった。今回はまだ戦いには参加せず、本陣で戦の流れを見るだけという約束だが、経験の無い私にはそれだけでも十分だった。
咸陽を出て二日、今はまだ行軍の途中だが、戦場が近付いている事を肌で感じる。後ろを歩く歩兵達の緊張が伝わってきて手足がどんどん冷たくなる、手の平には汗をかいていた。


「珍しいな、緊張しているのか」


いつの間にか騰様の馬が隣に並んでいた。そんなに顔に出やすいのだろうか、そう思ってふと周りを見ると、私が他の騎馬よりもかなり前に出ている事に気付いた。胸に手を当てると鼓動も速い。出来るだけ自然に笑った。


「情けない事に、緊張してしまっているみたいです」

「今回は見ているだけだぞ」


分かってはいても初めての戦で浮き足立ってしまう。昨日も遅くまで武具の手入れをしたり、戦いの立ち回りを考えたりとあまり眠れなかった。経験を重ねればこんな風に緊張しなくなるだろうか。きつく手綱を握り直して何度か深呼吸をした。


「本陣は鉄壁の守備だ。無用な心配はせず、明日は殿が仰ったように戦を見て学ぶのだ」

「はい!」


騰様はもう長く王騎様の副官をされているので、戦の経験も沢山お有りだろう。剣を打ち合ってみても、私では騰様の強さを引き出す事は出来ない。その底の知れぬ武を間近で見てみたいといつも思っていた。


「騰様はお強いですよね」

「ああ」

「どの位お強いのですか」

「私はとても強いぞ、この軍ならば殿の次が私だ」


という事は録鳴未様や隆国様より強い。騰様はやっぱりすごいのだ、そして王騎様はもっとすごいのだ。妙に誇らしくなり緊張していた心も和らいだ。


「騰様でも初陣は緊張されたのですか」

「……」

「……」

「さあな、昔の事は忘れた」


こちらを見ない騰様が少し可笑しくて、くすっと笑ってしまった。すると面白くないというような目線を送られ、慌てて口元を隠す。すると今度は騰様が可笑しそうに笑われた。その理由が分からなくて首を傾げたが、結局は教えて頂けなかった。