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「それよりも……私まだあなたの彼氏の話聞いてないんだけど?」

突然その話を振られ、今度は私が動揺してしまった。
ジョディさんはさっきの神妙な面持ちから一転、心なしか楽しんでいるようだった。こうなったジョディさんを前に見たことがある。

……赤井さんに紹介してもらったときと同じだ。
こうなればもう、追求されるのが目に見えていた。

私の予想通り、昴さんに出会ったときのことや付き合うようになったきっかけ、進展具合まで根掘り葉掘り聞かれた。
警察の事情聴取ってこんな感じなのかな……なんて呑気なことを考える余裕がある私も、これに慣れてしまったのかもしれない。

付き合うきっかけなんか話したら幻滅されるんじゃないか……って心配をしたけどそんなことはなくて、むしろ昴さんに興味を持ったようだった。
確かに、亡くなった恋人の代わりにしていいなんて言う人はそうそう居ないだろうし、ましてやそんな人と赤井さんの似ているところがいくつもあるなんて珍しい。
ジョディさんが興味を持つのも分かる気がした。

「会ってみたいわね、その彼」

ジョディさんに紹介したい気持ちもないわけではなかった。でも、私自身が昴さんに会うのを躊躇っているのに会わせられるはずがない。

「すみません……最近ちょっと彼には会ってないんです……」
「あら、喧嘩でもしたの?」
「そんなことはないんですけど……。赤井さん……に似ている人に会ってから急に会いづらくなってしまって……。本当に今更なんですけど、あの人を利用してしまっているのが申し訳ないんです。やっぱり私が好きなのはあの人じゃなくて赤井さんだって分かってしまったから。それなのに……」

それなのに、昴さんと付き合い続けるなんて昴さんに申し訳なさ過ぎる。彼の人生を私が奪ってしまうような気がして居たたまれなかった。

「……もしシュウが生きているならまた話は変わってくるかもしれないけど……ちゃんとその彼と一度話した方がいいんじゃない? ……本当にシュウによく似ている人ね」

やっぱり私の話だけで似てるって分かるほどなのか。ジョディさん、赤井さんのことも本当によく知ってるんだ、なんて思って見ていると、それが伝わったのかジョディさんは付け足した。

「あなたが"似てる"って思っているのは仕草とか外面的なところでしょうけど、私が言ってるのは内面的なところ。名前は気付いていないかもしれないけど、シュウがあなたといたときとよく似てるわ。きっとその彼、あなたのことを本気で愛してるのね。名前をとても大切にしているところなんてそっくりじゃない。……不器用な愛情表現しかできないところまでね」

何も言えなかった。

「だから、ちゃんとその彼と向き合いなさい。今の名前の正直な気持ちを伝えるべきよ。彼はきっと、名前のことを幸せにしてくれる人だと思うわ」

ジョディさんに言われるまで、私何も気付かなかった。まだ出会ってから数ヶ月しか経っていないのに、昴さんがそこまで私のことを思っていてくれているなんて一体誰が想像できたというのだろう。

期間なんて関係ないと言われればそれはまでかもしれないけれど、だとしても、この短期間でそこまでの関係を築いているとは思えない。特別恋人らしいようなお付き合いをしていないのだから尚更。

私に至っては、一度として昴さんに好きだと言ったこともない。それどころか、赤井さんへの行き場のない気持ちを昴さんに話しているくらいだ。

それなのに、本当にジョディさんの言うようなことがあるのだろうか。昴さんの考えていることが、更に分からなくなった。



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