04
店を出て帰路についた俺たちは、初めて一緒に帰ることとなった。
こうして二人で肩を並べる事でさえ懐かしいと感じるが、どうにも今までとは勝手が違う。間違いなく隣にいるのは名前であるはずなのに、別人だと思わせるようなか弱さ。痩せてしまった事も原因の一つではあると思うが、一回りも小さくなったように見える名前は、抱きしめたら壊れてしまうような脆さがあるような気がした。
そんな名前がさっきから何も言葉を発する事なく、深刻な顔をしながら重い足取りで歩いている。
「どうされましたか?」
あまりにも浮かない表情をしているので、心配になりこちらから声をかけた。俺の言葉でようやく名前はこちらを向いたが、その表情は痛々しく、とても見ていられるものではなかった。
「いえ、なんでもないです。少しぼーっとしてしまって。すみません」
力なく、無理に作られた笑顔。名前は笑っているつもりだろうが俺が知っている名前のものとは程遠く、涙で潤んだ瞳と目が合った。さっき話していたときはこんな顔はしていなかったのに、突然どうしたのか。
いや、断れない名前の事だ。大方"沖矢昴"の一連の行動に不信感でも抱いているのだろう。そう思ったのだが、名前がまだ完全に心を許していないであろう相手に、いくらなんでもそう簡単に涙を見せるとは思えなかった。何がここまで彼女を苦しめているのか、この短時間で彼女に何があったのか。
それを知る術は、本人から直接聞く他なかった。
「もし何か悩んでいることがあるようでしたら、僕でよろしければ話を聞きますが」
そう聞いてみても名前は何でもないの一点張り。つまり他人には言いづらい事、もしくは口にもしたくないような事だと予想した。
思い当たるのは、やはり俺の死。だがまだ俺が名前の前から姿を消した後に、名前の身近な所で何かがあったという可能性も捨てられなかった。同じ事を聞いても君はまた何でもないと言うだろう。
ならば質問を変えてみるか。本当に俺のことかどうか確かめるために。本当はこんな聞き方をするのは気が引けるが、今は名前の事を何も知らない沖矢昴だ。彼女の事を知りたい。そう思う男なら彼女にこんな質問をする事もあるだろう。
「失礼を承知で少し伺ってもよろしいですか?」
口では「はい」と答えてくれたが、聞かれる内容が想像つかないのか、彼女の目の色が怪訝そうなものに変化して俺に視線を送った。しかしそれに気を留めることなく話を続ける。
「以前から気になっていたんですが……名前さん、恋人はいらっしゃるんですか?」
俺の言葉を聞いた途端、名前がその場に立ち竦んだ。怪訝そうに見ていた目は俺から離れ、すぐに足元へと落としたため名前の表情から気持ちを読み取ることはできない。流石にこんなことを聞かれるとは思わなかったのだろう。足を止めた名前に合わせて、俺もその場に留まった。
「名前さん?」
名前を呼んでも返事をすることなく俯き続け、顔を上げようとはしない。名前の足元のコンクリートには二つの小さな水滴の跡。そして"恋人"という単語を聞いたときに名前が見せた過剰すぎる程の反応。
俺の予想は名前の返答を聞かずとも、既に確信に変わっていた。
「彼氏は……亡くなりました……」
絞り出したような声で、名前は"沖矢昴"に俺の死を告げた。
名前にこんな顔をさせているのは、やはり俺だった。俺の死が彼女を苦しめている。
名前、本当にすまない。
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