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「えっ……!」
外に出て自分が今いた場所を確かめるために振り返った途端、名前はまさに絶句とも言える様子でこの洋館を眺めていた。確かにここは大きな家ではあるが、一体何をそこまで驚く必要があるのだろうか。
「どうされましたか?」
「ここって、あの工藤さんの家ですよね……!?」
「ええ、まぁ……」
"あの工藤さん"と言われてもあの一家の誰のことを指しているのかは分からないが、ここが工藤邸であることには違いない。工藤夫妻は世界的にも有名な人物であるので驚くのは無理もないが、名前もこの辺りにはもう何年も住んでいるはず。
「なんで昴さんがここに住んでるんですか……?」
「以前住んでいたアパートが火事になりまして……知人に相談したところ、こちらを使ってもいいと伺ったのでお借りしているんです。さぁ、もう遅いので帰りましょう」
あまりにも驚いた様子でずっと立ち止まっているので、名前の腕を引き彼女のアパートへと足を進め始めた。名前が歩き出したのを確認すると、彼女のペースに合わせ、二人並んで足音を刻む。
「昴さん、工藤さんとお知り合いなんですか?」
俺があそこに住まわせてもらっていることが、名前にとっては余程驚嘆するようなことであったらしい。その事実を知った途端、先程より少し元気を取り戻した。いや、元気を取り戻したというよりは単純に興味があるといったところだろう。
「いえ、知り合いという訳では……それより名前さん、身体の調子はいかがですか?」
これ以上名前に詳しい事情を知らせるべきではない。 そう思い、彼女の体調へと話を逸らした。
「え? あ、はい、もう大丈夫です。ごめんなさい、また心配かけちゃって……」
「僕が勝手に心配しているだけですから。前にも言いましたが、また何かあったら連絡して下さい。すぐにあなたの所に駆けつけますよ。僕があなたの支えになる、そうお伝えしましたよね」
「はい……ありがとうございます……」
相変わらず俯いてしまったが、街灯に照らされる名前の頬が朱に染まっているのが見えた。本当に照れ屋というか純粋というか。未だにこんなことで恥ずかしがる名前が可愛くて仕方がない。俺の気など知らない名前は、顔を隠すように下を向いて歩き続ける。話しながら歩いた道のりは短く感じ、あっという間に名前のアパートへと到着した。
「今日はゆっくり休んでくださいね」
「すみません、ありがとうございました。おやすみなさい」
名前が部屋に入ったのを見届けてから、俺もその場を後にした。
◇
翌日、名前のその後の様子が気になり連絡を入れた。ついでに次の約束を取り付けようと思ったのだが、名前から来た返事は断りを入れるものだった。
《すみません、風邪を引いてしまいました。昴さんにうつす訳にはいかないので、治るまで会うのは控えます。ごめんなさい》
昨日の出来事のせいかは分からないが、疲れが身体に出たのかもしれない。
《そうでしたか。それではまた体調が良くなってからお会いしましょう。お大事に》
余程堪えたのだろう。今無理をさせる必要もない。労りのメッセージを送り、ニュースに目を移した。
「ん……?」
ちょうどやっていたのは先日起こった銀行強盗のニュースだった。事件後の映像に切り替わったとき、画面の端に随分と見覚えのある人物が映り込んでいた。名前が見たのはこいつで間違いないだろう。俺も少し調べてみる必要がありそうだ。
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