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しばらく調査を進めてみたが、俺の予想はやはり的中していた。テレビに映っていた火傷の男は奴らの仲間の変装。そして名前が見たと言っていた俺に似た男も同一人物である可能性が高い。ベルモットにかかればあの程度の変装は容易いことだろう。

調べている中で、もう一つ気になることが浮上した。この間ボウヤが連れ去られたときにいた金髪の男。あのときボウヤを助けるために車を運転していたのは、間違いなくバーボンだった。奴が動いているとなると少々厄介なことになりそうだ。あの探偵事務所で動画を見ていたのもバーボンだったのであれば、ベルツリー急行で奴らは動くだろう。

名前と最後に会ってから三週間ほど経ったがまだ体調は良くならないらしく、連絡は取り合うものの会うことは出来なかった。
事件続きで先の見通しも立たないためちょうどいいタイミングではあるが、ここまで長引くと本当に風邪なのかさえ疑わしい。だが彼女を疑うようなことを聞くのは不可能であるし、正直今はゆっくり会っている時間もない。連絡を取ることで名前の身の安全が確認できれば十分だった。





「俺が提供できる情報はこれくらいだ」
「ありがとう赤井さん。ヤツら、やっぱりベルツリー急行で何か仕掛けてくるかもしれないね……」
「ああ。奴らが動くなら今だろうな」

ボウヤも俺と同じように顎に手を当てて、奴らの今後の動向について頭を悩ませている。お互いの持っている情報を共有し合うため、そして奴らを返り討ちにする策を練るためにボウヤをこちらに呼び寄せ、作戦会議なるものを行っていた。どうやら彼の読みも俺と同様らしい。

どうやって奴らを返り討ちにするか、どうやって博士の家にいるあの子を守るか。大筋のシナリオは既に出来上がっており、今回は俺に変装を教えてくれた有希子さんも手を貸してくれるそうだ。あの人の変装術はベルモットにも引けを取らないので心強い。さすがにこの姿で俺が派手に動き回るのは避けたいところなので、今回はボウヤのサポートに徹することになるだろう。

「ねぇ赤井さん、聞きたいことがあるんだけど……」
「ん?」

いつものボウヤとは様子が違い、少し遠慮がちに俺に話しかける。聞きたい事、と言われてもこれ以上提供できるような情報は何一つ持ち合わせてないんだが。

「こないだ一緒にいたお姉さんってさ……もしかして赤井さんの彼女?」

ボウヤに聞かれた事があまりにも思いがけず、つい目を見開いた。今の話の流れから奴らの事を聞かれるのかと思い身構えていただけに、思わず拍子抜けしてしまった。
まさか彼女と一緒にいるところを見られていたとは。よりによってこのボウヤに。いつ俺たちを見かけたのかは分からないが、あの日に俺たちを見かけたというのなら、やはり場所が悪かったのかもしれない。

「そうだとしたら何か問題でもあるのか?」
「ううん、別に。赤井さんにもそういう人がいたんだね」

まるで俺に恋人がいるのが意外だとでもいうような物言いだ。確かにあえて公にはしていなかったため名前のことは知らないかもしれないが、それがそこまで驚くようなことなのだろうか。「それはどういう意味だ?」と問うが「ちょっと気になっただけ」だと言う。

「あの人は昴さんの彼女? それとも……」

ボウヤの言いたいことは概ね予想がつく。まったく、このボウヤには本当に驚かされてばかりだ。恋愛沙汰でさえもそこまで読み取れる観察力は末恐ろしい。

「今は、沖矢昴の恋人だ」

そう、今"は"。
鋭いボウヤには恐らくこの言葉の意味が分かるだろう。

「これからどうするの?」
「どうもしない、このままだ」
「そっかぁ……。赤井さんはさ……恋人に正体を隠してるの辛くないの?」
「さぁ、どうだろうな。そういうボウヤはどうなんだ?」

痛いところを突かれ、はっきりと答えられず曖昧な返答で誤魔化すしかなかった。俺ばかり聞かれるのは癪だと思い、ボウヤにも同じように聞き返す。しかし俺が聞き返した途端に狼狽えながら、「ボクは別に……」と彼もまた言葉を濁した。

名前に真実を伝えられないのは、"辛い"というよりは罪悪感の方が強い。あんなに何度も涙を見せるなど、今までの彼女にはないことだった。

……まさか彼女は、普段から俺がいないところで泣いていたのだろうか。俺に余計な心配をかけないために。彼女は強いと思っていたが、それは名前が強く見せていただけだったのかもしれない。俺は名前の事を全く分かっていなかった。

彼女に対する罪悪感は消えることはなく、更に深いものとなって俺の中に刻み込まれた。



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